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平成30年の二つの最高裁判決
二つの判決のうち、先に出た平成30年12月11日最高裁第三小法廷判決
6 (以下、A判決)では、元同僚から依頼を受けた受け子が、約20回異なるマンションの空室に赴き、都度指定された名宛人に成りすまして、宅配便を受け取ったうえ、回収役に渡していた。受け取るたびに報酬1万円と交通費2,3千円を受け取っていた。また受け子は何らかの犯罪行為に加担していることは認識していたと認めている。このような事実関係の下でA判決は「自己の行為が詐欺に当たるかもしれないと認識しながら荷物を受領したと認められ、詐欺の故意に欠けるところはなく、共犯者との共謀も認められる」とし、高裁の無罪判決を覆した。結果、一審の下した覚せい剤取締法違反の罪(使用・所持)とあわせた懲役4年6ヶ月が確定することになった。
続いて下された、平成30年12月14日最高裁第二小法廷判決
7(以下、B判決)では、受け子が知人の暴力団員から依頼を受け、5,6名分の運転免許証の写しとプリペイド式携帯電話機を渡された上、自宅で別人に成りすまして5回ほど荷物を受け取り、直後に現れたバイク便の男に荷物を渡しそれぞれ5千円から1万円の報酬を受け取った。受け子は荷物の中身について金地金等である可能性があると考えたと供述するほか、詐欺の被害品である可能性を認識したという趣旨の供述もしていた。このような事実関係の下でB判決は「自己の行為が詐欺に当たるかもしれないと認識しながら荷物を受領したと認められ、詐欺の故意に欠けるところはなく、共犯者との共謀も認められる」とA判決と同一文言の判断を下している 。B判決も高裁の無罪判決を覆し、覚せい剤取締法違反とあわせ一審の下した懲役2年6ヶ月が確定することとなった。
A判決とB判決を読み解くにあたっては、二つのことを知っておく必要がある。
一つ目は、詐欺という犯罪においては、前述の通り、人をだますという行為がなされたのち、だまされた人が財物を渡し、それを受け取るという行為がなされる必要があるということである。言い換えると、詐欺罪が既遂となるには受け取るという行為が必要となることから、受け子に詐欺の故意があった場合においては、受け子を共同正犯(正犯)と見るべきことが検討されることになる。
そして、受け子のように犯罪行為が行われる流れの中で途中から参加した者を正犯と見る考え方として、いわゆる「承継的共同正犯」論がある。この場合の承継的共同正犯とは、先行者(架け子)が既に詐欺行為の一部(被害者をだます行為)を行った後、後行者(受け子)が事情を知った上で、犯罪行為に途中から参加(金銭の受け取り)することである。後行者には先行者の行為を利用する意図、あるいは少なくとも意思の連絡(共同実行の意思または共謀)が必要となる
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二つ目は、詐欺は故意犯のみを罰することとなっている(刑法第246条)が、いわゆる未必の故意でもよいということである。未必の故意とは、犯罪事実の確定的な認識・予見はないが、その蓋然性を認識・予見している場合である 。蓋然性とは聞きなれない言葉だが、可能性が相当程度高い場合を指す。つまり、詐欺を行っていると確定的に思っていなくとも、おそらく詐欺であろうと思った、あるいは詐欺でも構わないと思っている場合が未必の故意である
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以上から、受け子が、首謀者等から荷物を受け取るべきことおよび受け取りの仕方の指示を受けるなかで、詐欺が行われているのではないか、そして詐欺により送られてくる財物を自分が受け取る役割を負っているのではないかということを確定的でなくても認識したといいうることが、受け子が詐欺の共同正犯に問われるために必要になると考えられる(図表4)。