前章で述べたように、現在、世界中で使用されている暦のグローバルスタンダードになっているのは、グレゴリオ暦であるが、世界で使用されている暦はグレゴリオ暦だけではない。
1|東アジアの国々における旧暦
「旧暦」というのは、改暦があった場合のそれ以前に使われていた暦法のことを指しているが、多くの国ではグレゴリオ暦が現行暦のため、グレゴリオ暦の前の暦法を指している。東アジアの多くの国々では、グレゴリオ暦の採用が欧米諸国に比べて比較的最近であることから、旧暦に基づいた文化や風習も引き続き国民の生活に根付いた形になっている。
例えば、皆さんもご存知のように、新年のお祝いの行事は、中国や台湾では現在でも「春節」と呼ばれ、旧暦による正月(旧正月)に行われている。韓国やベトナム、モンゴル等でも旧暦による正月がグレゴリオ暦の正月より盛大に祝われている。
なお、日本においても旧暦の文化等が残っており、例えば、お盆については、多くの地域では新暦の8月15日となっているが、新暦の7月15日や沖縄のように従前どおりに旧暦の7月15日となっている地域もある。さらに、現在でも旧暦で付けられていた各月の名前が使用されている(ただし、旧暦は現在の暦よりも約1ヶ月遅れているので、それらの名前の意味するところを現在の暦で考えると、実際の季節とマッチしていないことになる)。
2|イスラムの国々における暦
(1)イスラム暦
「イスラム暦(ビジュラ暦)」は、「マホメットが50歳の時に神の啓示を受けたメッカからヤスリブ(後のメジナ)に移った年を記念して、二代目カリフのウマルが西暦622年を「ヘジラ紀元」の元年として定めたものといわれている。」とのことである。
イスラム暦は1年が354日で、奇数月は30日、偶数月は29日となり、独自の方式で設定される閏年もある。断食月であるラマダーンはこのイスラム暦に基づいて決定されるため、グレゴリオ暦に比べて毎年11日ずつ早くなる、そのため、ラマダーンの時期は毎年異なって、3年に1ヶ月ずつずれていくことになる。
なお、イスラム圏の大国であるサウジアラビアは、イスラム暦をつい最近まで公式の暦として使用していたが、2016年に、ムハンマド・ビン・サルマーン副王太子(当時)が、グレゴリオ暦への変更を行っている。
(2)イラン暦
イランにおいては、「イラン暦」とよばれるものが、イランを中心に、中東の広い地域で使われている。イランは長く太陰暦である「イスラム暦」を使用していたが、1925年に新たに太陽暦である「イラン暦」をつくり、現在公用暦として使用されている。このイラン暦では、春分に相当する日が元日にあたり、「ノウルーズ」として祝われる。
このノウルーズについては、ソビエト連邦から独立した中央アジア5か国(カザフスタン、トルクメニスタン、キルギス、タジキスタン、ウズベキスタン)やアゼルバイジャンではいずれも国家の祝日として、広く祝われており、その他にアフガニスタンやパキスタンやトルコ等でも祝祭が行われる。
8―再び、なぜ冬の1月という時期から新年がスタートするのかについて