米中対立と習近平経済学(シーコノミクス)

2019年01月11日

(三尾 幸吉郎)

■要旨

1――習近平政権の誕生
習近平政権が誕生した2012-13年の中国経済は、改革開放後に始めた成長モデルの成功で世界第2位の経済大国になっていたものの、その成長モデルが限界に達し「中所得国の罠」に直面していた時期でもあり、"外需依存から内需(特に消費)主導への体質転換"、"製造大国から製造強国への高度化"、"製造業からサービス産業への高度化"という3つの構造改革の推進と、過剰設備・過剰債務問題の解消が課題だった。

2――習政権一期目のシーコノミクス
習近平政権一期目の経済運営を総括すると、習経済学(シーコノミクス)の真骨頂は「安定重視」だと言える。株価が急落した場面(チャイナショック)では、景気テコ入れ策を発動するなど、予め定めた成長率目標を死守する一方、景気が持ち直すと早々に痛みを伴う構造改革を推進したからである。なお、習近平政権一期目の構造改革は、緩やかながら着実に進んだと評価できるものの、過剰設備・過剰債務問題の改善は道半ばに留まった。

3――シーコノミクス二期目の注目点と課題
習近平政権二期目の注目点としては以下3点を挙げたい。第一に「三大堅塁攻略戦(重大リスクの防止・解消、的確な貧困対策、汚染対策)」を2020年までに達成できるか。第二に第14次5ヵ年計画(2021~25年)の成長率目標である。成長率目標を低めに設定できれば過剰設備・過剰債務問題は解消に向かうと見られる。第三に「インターネット・プラス」と「中国製造2025」を結び付けた新たな成長モデルの構築が順調に進むかである。

4――米中対立とシーコノミクス
習近平政権は「習近平一強」といわれる体制を整えてスタートしたが、経済政策の舵取りを誤れば政権基盤が揺らぐ恐れもある。かつて、中国の英雄だった毛沢東でも「大躍進政策」の失敗の責任を取って、国家主席を辞任するに至ったことがある。現在、その点で気になるのが米中対立だ。米中対立がさらに深刻化し、民間企業や学術機関などの交流にまで悪影響が及べば、芽生え始めた中国の新たな成長モデルが頓挫する恐れもあるからだ。
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