2|
リスク基準などに、契約者行動を考慮する取組みが広がっている
現在、リスク管理や会計基準の見直し検討が行われている。その中で、将来のキャッシュフロー推計を行う際に、契約者行動を考慮することが、規定として盛り込まれるようになってきている。
(1) ヨーロッパにおける保険会社の健全性規制 (ソルベンシーII規制)
保険や再保険の引き受けにおいて、契約者が、失効、解約などの契約上のオプションを行使することを見通す際は、過去の契約者行動の分析や、想定される契約者行動の見積もりを行う
5。
(2)保険契約に関する国際会計基準 (IFRS 17)
保険契約のキャッシュフローの評価の際は、契約者行動についての保険会社の見方を反映する。また、リスク調整を行う際は、実際の契約者行動が、想定していたものとは異なった場合について、保険会社の見方を反映する
6。
規制上や会計上には、「契約境界(contract boundaries)」に関する規定もある。契約境界とは、保険料のキャッシュフローを認識するかしないかという境界を指す。つまり、既に締結された契約と、まだ締結されていない将来の契約の間の線引きである。現在の規定によると、この契約境界を見極める際に、契約者行動やそれに対する管理活動を考慮することとなる。
たとえば、保険会社側が契約を終了したり、保険料の収納を拒否したり、保険料や給付内容を改定したりすることができる旨の契約条項がある場合、それらに対する契約者の反応が予想される。このため保険会社は、契約者の反応を予想して、それを契約境界の設定に反映させなくてはならない。
ただし、ORSAシナリオ
7、ALMモデル、市場整合的な経済価値(MCEV)ベースでの試算の場合は、こうした契約境界を外すことが適当となる
8。すなわち、契約者行動の想定を、リスクが消失するまでの期間に渡って、保持し続けることが求められる。特に、契約境界が1年以下で、保険会社が新契約の販売効果を試算に反映したいと考えている場合、契約境界を外して長期の収支をみることが必要となる。
5 "Implementing measures on SolvencyII"Commission Delegated Regulation(EU)2015/35, art26
6 Insurance Contracts - Exposure Draft ED/2013/7
7 ORSAは、Own Risk and Solvency Assessmentの略であり、 リスクとソルベンシーの自己評価のことをいう。
8 ALMは、Asset Liability Managementの略。MCEVは、Market Consistent Economic Valueの略。
3――契約者のオプションと行使トリガー