今日のアメリカ株式市場を代表する企業は、いずれも独自のデジタルプラットフォームを通じてアセット・ライト戦略を展開するところが目立つ。アップルやアルファベット(グーグル)は、各々App Store、Google Playという独自の「場」を作り、自社が開発したオペレーティング・システム(OS)とその製品の周りを取り囲むエコシステムを構築した。製品の開発は自社だが、携帯端末製造は他社に任せ重厚長大な生産施設は持たない。アップルを例に取ると、そのエコシステムには毎年16万人近い外部のアプリケーション開発者や企業が参画しアプリを提供している。冒頭で述べたファブレス経営の例に準えれば「場の開発」は自社、「コンテンツ作り」は他社という仕組みがここでも活用されている。こうして提供されたアプリは2百万種類に上る
2。 企業が1社で自前開発していたら到底実現できないようなスケールを可能としてしまうのがデジタルプラットフォームの凄さだ。同社の携帯端末の累計出荷台数は 2018年9月時点で20億台に迫っている
3。 ユーザーが求めるニーズがどのように変容しても、その「場」に集う外部の開発者が常に応えてくれる。この好循環が競争力の維持に少なからず貢献している。このように開発されたアプリが、カメラ、ビデオ、カーナビ、時計、電卓といった製品から、映画、音楽といったサービスに至る広範な分野で既存のビジネスを侵食している。
ソーシャルネットワーキングサイト(SNS)という「場」を作ったフェイスブックやツイッターは、20年前は存在していなかった。それを可能としたのも正しくテクノロジーの進歩だ。彼らは、従来のメディア産業と異なり独自の番組やコンテンツは一切制作しないので、その分、資産も軽い。これらデジタルプラットフォームは、自前でコンテンツを作らないにもかかわらず、既存メディア産業が垂涎するような大衆を世界規模で囲い込み、マスメディアの概念を根本から変えてしまった。人々が1日のうちソーシャルメディアに費やす時間は約2時間
4といわれている。他の活動を削り、その時間をソーシャルメディアに割いている訳であり、既存のビジネスへのインパクトは計り知れない。
シェアリング・エコノミーで注目される民泊サイトのAirbnb(エアービーアンドビー)や配車サイトのUber(ウーバー)も、業種は違えど着想点は似ている。両社は、空き家となっている個人宅や週日は稼働していない個人所有の自動車など、各地に点在する資産を自社の「場」に取り込み、既存のホテルやタクシー会社の牙城に切り込む。商売道具として不可欠な資産(宿泊施設や自動車)はあくまでも個人に帰属し、企業として保有することはないため、これもアセット・ライト経営のひとつだ。そのAirbnbに登録された民泊物件数は4百万件に上り、部屋の質はさておき数の上では世界のホテルブランドトップ5が提供する総客室数を上回る
5。米国ではUberにフレックス労働制で登録したドライバーがおよそ200万人いるとされ、約30万人いるタクシー、お抱え運転手の数を大きく上回る。
流通で今や時価総額世界最大となったアマゾン。同社が立ち上げたアマゾン・ドット・コムという「場」に流通する商品も、過半数は第三者の業者によるものだ。ここでも「場の開発」は自社、「コンテンツ」は他社という関係が成り立つ。IT技術を駆使し、徹底した物流の効率化を図ることで小売の在り方を根底から覆した同社は、近年まで店舗も持たず、商品在庫は常に最適最少にすることでアセット・ライト戦略を展開してきた。同社は、その身軽さとデジタルプラットフォームビジネス固有のネットワーク力で販売者と消費者を空前のスケールで囲い込み、創業から21年で巨星ウォルマートを時価総額で抜くまでに成長したのである。
2 "iOS Developers Ship 29% Fewer Apps in 2017, the First Ever Decline – And More Trends to Watch" Appfigures Mar 30, 2018
3 2018年9月に開催されたApple主催のイベントでのクックCEO発言より
4 "Daily Time Spent on Social Networks Rises to Over 2 Hours" Global Web Index May 16, 2017
5 "Airbnb now has more listings worldwide than the top five hotel brands combined" Business Insider Aug. 10, 2017