■要旨
全国の病院では、日々、医師が患者を診る臨床医療が行われている。その背後には、病理医がいる。病理医は、病理診断を通じて臨床医療の根幹を支えている。ただし、病理医の存在は、一般にはあまり知られていないものと思われる。
本稿では、病理医の役割を紹介すべく、専門医制度から病院での実務にいたるまで、幅広くみていくこととしたい。あわせて、病理診断に関する新たな医療技術についても、概観することとしたい。
本稿が、病理医や病理診断について、読者の関心を高める一助となれば幸いである。
■目次
0――はじめに
1――病理医の役割
1|病理医は細胞をみて病理診断をする
2|病理診断は「細胞診」、「組織診」、「病理解剖」からなる
2――病理診断の実施規模
1|病理診断は年間530万件程度行われている
2|病理専門医は全国で2,500人ほどしかいない
3|病理診断科の医師は2,000人ほどに限られる
3――病理診断の実務
1|プレパラートの作製には、臨床検査技師の技術が不可欠
2|病理診断の結果は、「病理診断報告書」にまとめられる
3|術中迅速診断は、病理医に大きなプレッシャーがかかる
4|病理医は病院内の診断科を横断的につなぐ役割を担っている
5|病理診断の作業には、さまざまな危険が伴う
4――病理診断の現状と将来に向けた動き
1|「病理診断科」は2008年度から標榜できるようになった
2|「ひとり病理医」のままでは病理診断に支障が出る
3|病理診断の精度管理には、新たな医療技術の活用が有効
4|症例報告を通じて、医療関係者間の議論が促進される
5|病理医と面会することで、患者の理解や納得感が高められる
5――病理医が行う診断の内容
1|細胞の異常 : 細胞をみることは病理診断の基本
2|代謝障害 : 代謝は体内の物質加工
3|循環障害 : 循環は酸素運搬のカギ
4|炎症 : 炎症は急性と慢性で病状が異なる
6――腫瘍の病理診断と手術
1|がんの診断は、原則として病理医による病理診断で確定する
2|「縮小手術」には、病理医の摘出状況の診断が欠かせない
3|腫瘍にはさまざまな種類があり、それぞれ治療法が異なる
7――新たな医療デジタル技術の活用
1|病理医はAIを上手に活用することが求められる
2|バーチャル顕微鏡の活用で病理医不在を補うことが必要
8――おわりに (私見)