前回のレポート「
Brexitに向けての英国政府の対応-No-deal(合意なし)シナリオも踏まえた保険監督当局等の検討状況-」(2018.10.30)において、「国境を越えた保険契約(Cross-border contracts)の取扱」を巡る動きについては、英国と(英国以外の)EUの間での認識や対応に差異が見られている、と報告した。
ここまで、述べてきたように、多くの英国等の保険会社は、この問題に対して、英国以外にEUの保険子会社を設立して、Part VII の移転を行うことで対応しようとしている。ところが、全ての保険会社がこのような対策を講じているわけではなく、引き続きこの問題は英国の保険業界がBrexitに伴う最も大きな課題の1つと考えるものとなっている。
これに関して、先の基礎研レポートの出稿後に新たな動きがあったので、ここで報告しておく。
1|国境を越えた保険契約に関して、新たにEIOPAが声明を発表
EIOPAは、2018年11月5日に、「EIOPAは、国境を越えた保険におけるサービスの継続性を確保するための即時行動を求めている(EIOPA calls for immediate action to ensure service continuity in cross-border insurance)」との声明
5を発表した。なお、EIOPAは、2017年12月に、「保険会社は、EUからの英国の撤退に際し、サービスの継続性を確保するための十分かつタイムリーな準備を行うことを促される」として、「EUからの英国の離脱を踏まえた保険におけるサービス継続性に関する意見(Opinion on service continuity in insurance in light of the withdrawal of the United Kingdom from the European Union)」とする意見書
6を公表していた。
この意見書の中で、EIOPAは、英国と英国が離脱した後の英国なしの欧州共同体(EEA30)間の国境を越えた保険契約の継続性を保証するために、保険会社に適切な時期に必要な措置を講じるように要請していた。
今回の声明の中で、EIOPAは、「保険会社、特にEEA30カ国
7における国境を越えた契約を有する英国及びジブラルタルからの会社のコンティンジェンシー・プラン(緊急時対応計画)を綿密に監視している。」と述べた。EIOPAによれば、「EEA30カ国で大規模な国境を越えた契約を有する保険会社は、措置を講じ、緊急時対応策を実施している。しかし、現在まで、EEA30カ国の管轄区域で国境を越えた契約を有する英国とジブラルタルからの124の会社は、英国がEUとの間で合意なしで離脱した場合にサービスの継続性を確保するためのコンティンジェンシー・プランがないか不十分なままである。」と述べている。
さらに、「合意なしの離脱の場合、910万人のEEA30カ国の保険契約者は不確実性に直面し、支払いを受け取るのが遅れる可能性がある。これは、国境を越えた契約を結んでいる合計3800万人のEEA30カ国の保険契約者からは大幅に少ない数値であり、国境を越えた大規模な契約を有する英国保険会社の措置の程度を示している。関係する残りの国境を越える契約は、74億ユーロの保険負債を有している。十分なコンティンジェンシー・プランがない英国及びジブラルタルからの保険会社の残りの契約は、(保険負債に関して)EEA30カ国における保険契約全体のわずか0.16%に過ぎない。」と述べている。
加えて、「(保険負債54億ユーロの)大部分の契約は、英国の保険会社のほんの一握りに関連している。残りの契約は、主に価値の低い負債と短期借入債務を有している。全体として、関連する契約の75%は年間平均保険料が100ユーロ未満のポートフォリオに属している。平均して、契約の76%の負債残存期間は2年未満である。契約の大部分は損害保険会社との契約である。潜在的に影響を受ける保険契約者の3%のみが生命保険会社と契約している。」としている。
EIOPAは、残りの契約に対するリスクに対処するために各国の管轄当局と協力しているが、保険会社や保険契約者に対しては、以下のように述べて、行動等を促している。
「法律では、保険会社は、コンティンジェンシー・プランの策定を含む、活動の継続性と規則性を確保する必要がある。監督当局はそれぞれコンプライアンスを確保しなければならない。サービスの継続性の中断を避けるためには、会社及び監督当局からの即時かつ強化された措置が必要となる。消費者を損なう可能性がある不十分なコンティンジェンシー・プランは、ガバナンスの重大な失敗である。
英国及びジブラルタルからの会社との国境を越えた保険契約の保険契約者は、保険会社が取っている関連する緊急時対応策及び契約上の関係及びサービスへの影響について、通知を受けるべきである。さらに質問がある場合、顧客は保険会社に連絡することもできる。保険契約及びサービスの離脱の影響に関する一般的な情報については、保険契約者は、各国の監督当局又は英国又はジブラルタルの監督当局に連絡することができる。」