水面下で広がる円高~経済・企業収益への影響も

2018年11月02日

(上野 剛志) 金融市場・外国為替(通貨・相場)

■要旨
  1. 10月上旬以降、世界的に株価が下落し、金融市場はリスク回避的な地合いとなったが、円高ドル安の進行は極めて限定的に留まり、むしろドル円の底堅さが際立つ結果となった。従来、リスク回避局面ではドルに対しても円が買われる傾向が強かったが、今回は米国経済の強さに対する市場の信頼感を背景として、ドルも円と同様に買われたためだ。実際、実効レートを見ると、円もドルも上昇している。
     
  2. しかし、このことは裏を返せば、ドルを除く多くの通貨に対しては円高が進行していることを意味する。実際、BISが算出する円の実効レートにおいて、構成シェアの高い15通貨(つまり、日本の貿易においてシェアの高い15ヵ国・地域の通貨)の対円レートを確認すると、10月の世界株安局面で、幅広くリスク回避的な円買いが進んでいることが確認できる。また、昨年末を起点とした場合には、ドルを除く全ての通貨に対して円高が進んでいる。今年、多くの通貨に対して円高が進んだ理由としては、日本の超低金利、多額の経常黒字、乏しい追加緩和観測、政治の安定などが考えられる。
     
  3. このように、ドル以外に対して円高が進んでいることは、やはり日本の輸出の逆風になると考えられる。日本の輸出先は米国ばかりではない。仮に輸出時の決済通貨がドルや円だったとしても、輸出相手先の通貨に対して円高が進めば、輸出競争力の低下や輸出採算の悪化に繋がる。現に、最近発表されている企業決算や業績見通しにおいて、新興国通貨安が利益減少要因となっている例が散見される。また、(対ドル以外の)円高によって輸入品の価格競争力が高まり、国内企業の市場を侵食する可能性もある。
     
  4. なお、現在はドル需要も強いため、新興国通貨等が売られる際に円とドルに買い圧力が分散している。ただし、今後、もし米経済への期待後退などからドルの選好度が低下すれば、リスク回避局面などで買い圧力が円に集中し、円が急伸することになりかねない。
■目次

1.トピック:水面下で広がる円高
  ・円高とドル高が同時に発生
  ・円はドルを除く幅広い通貨に対して上昇
  ・日本経済・企業収益への影響も
2.日銀金融政策(10月):海外リスク要因への警戒を強める
  ・(日銀)現状維持
3.金融市場(10月)の振り返りと当面の予想
  ・10年国債利回り
  ・ドル円レート
  ・ユーロドルレート

経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志(うえの つよし)

研究領域:金融・為替

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴

・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
・ 2007年 日本経済研究センター派遣
・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

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