中村 亮一()
研究領域:保険
研究・専門分野
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7.低金利(Low interest rates)
7.1.銀行
歴史的な低水準の金利は、引き続き、被監督会社及び監督当局にとって大きな課題の1つである。それが長く続くほど、ドイツの銀行、特に収益の主な源泉が正味受取利息である金融機関の、既に弱い収益に負担をかけることになる。直近では、このことは、2017年4月初めにBundesbank(ドイツ連邦銀行)と共同でBaFinが開始した低金利環境調査で確認された(情報ボックス「ドイツの機関の調査」を参照のこと)。
注釈
ドイツの機関の調査
BaFinとBundesbankは、2017年の低金利環境調査で、低金利環境での経営成績と弾力性について、ドイツの直接監督下にある約1,500の中小金融機関を調査した。これらの機関は、ドイツの全金融機関の約90%、総資産の約40%を占めている。
継続的な損益
2015年の調査時点よりも、今回の機関の感情はやや楽観的だったが、シナリオによっては、ドイツの銀行業界の収益が引き続き低下しているという指摘もあった。全体として、2021年までに税引前利益は9%減少すると予想されている。もし事業規模が計画通り、同期間に約10%拡大すれば、収益性は16%低下する。これらの進展は、特に2021年までの期間に対して52億ユーロと決定されている評価性引当金の増加により促進される。
ストレステスト
経済環境の悪化が機関の資本リソースにどのように影響するかを推測するために、BaFinはこの調査の一環としてストレステストを実施した。これにはBaFinが関わっており、金利、市場及び信用リスクを含む様々なストレスシナリオにおける与信機関の弾力性を検証している。
これの目的は、信用機関の自己資本比率が、これらのストレス要因を緩和する上でどの程度効果的かを立証することだった。
殆どの機関で良好な耐性力
勇気付けられる結果は、ドイツの殆どの中小規模の機関が、直近のストレステストの時よりも耐性力があったということだった。「ストレスシナリオ後においても、金融機関の殆どは、強固な資本基盤を有しており、監督資本要件を超えることができ続ける」、とRaimund Röseler銀行監督CEDは説明した。ストレス後のTier1資本比率は、参加銀行全体で13.3%である。「しかし、参加機関の約4.5%が含み益を考慮した場合でも、ストレスシナリオでのピラーIとIIの資本要件プラス資本保全バッファーを満たすことができない。」とRöseler氏は警告した。
ストレステストで最も顕著な効果は、金利の急激な上昇が評価に与える影響だった。このような増加はまた、短期的に銀行の純受取利息に悪影響を及ぼした。市場リスクに関しては、ストレステストの影響は、利付負債及び非利付負債エクスポージャーがほぼ等しい尺度で発生している。しかし、利息以外のエクスポージャーは、ポートフォリオの約5分の1しか占めていないため、ストレス効果に不利な影響を与える。信用リスクストレステストは、銀行が信用リスクの突然の上昇に対して十分に準備されていることを示している。このカテゴリーでは、とりわけ有益な効果をもたらしたのはマクロ経済の好調な業績だった。
BaFinは、ストレステストで特定されたリスクを使用して、監督目標の自己資本比率を測定する。この比率は監督者にとって貴重な早期警戒指標であり、ドイツ銀行市場の安定性をさらに強化するために役立っている。BaFinは特に脆弱な会社に対して緊密な監督を行う。
低収入からの出口
低金利からの圧力が高まっている中で、銀行は 「多くの銀行サービスを無料で受け取ることに慣れてきた公衆によって批判的に評価されてきた進展」である手数料を徴収することが増えている、とBaFin のHufeld長官は指摘する。彼らの姿勢は理解できるが、近視眼的であった。彼らは、健全な銀行や貯蓄銀行の顧客であることを望んでいるならば、機関が費用に沿って価格を課し、古い収入源が乾いたときに新たな収入源を開かなければならない、ということを受け入れなければならなかった。最近の低金利環境調査が過去2回の調査よりも楽観的な結果を出しているという事実は、いずれにせよ、これらの措置が成果を上げる可能性があることを示している。景気後退が緩和されると、機関の利益への圧力が再び上昇する可能性がある。
7.2.保険会社
Grund氏は、「過去にドイツの生命保険の死を知らせる音が聞こえたとよく聞いてきた。」と述べた。しかし、彼は、BaFinの調査結果によれば、基本的には、生命保険会社の健全性にかなり悪影響を及ぼしている持続的な低金利にも関わらず、セクターには短期的又は中期的にその存在を脅かす可能性のあるいかなる問題もなかった、と続けた。BaFinは、保険会社のリスク管理と意識が大幅に改善されたと考えているが、引き続き多くの生命保険会社を、特に密接な監督下に置いている。
資本での生存
ますます多くの生命保険会社が資本に依存して生きている。彼らは保険料準備金そして継続中の投資収益から会社を強化することを意図した追加責任準備金(Zinszusatzreserve - ZZR)への必要な拠出を満たすために精一杯である。
その結果、保険会社は含み益(隠された準備金:hidden reserves)を実現化しなければならない。現時点では準備金水準が非常に高いため、これはある程度は許容されるが、隠された準備金は本質的に将来のキャッシュフローである。彼らは無限に実現化することはできない。
ZZRを維持する.
ZZRは会社への負担となっているが、廃止することは重大な間違いである。Zinszusatzreserveは保険料準備金を体系的に強化する。それゆえ、セクター全体をより強固にし、長期的に保証された利益を提供する能力を支える。保険会社が追加責任準備金を積上げるように要求することは、基本的にはまだ正しいことであった、とGrund CEDは強調した。
...しかし調整する
しかし、BaFinの観点からは、現行の率でこの準備金を構築し続ける必要はなく、また推奨することもできない。「BaFinは、ZZRの較正方法が2018年に見直され、調整されることを期待している」とGrund氏は説明する。「金利が上昇する場合、そのような環境下で会社が利用できる隠された準備金が低くなるため、これもまた重要である。」
注釈
保険料準備金の一部としてのZinszusatzreserve(ZZR)
特に生命保険や年金保険などの養老契約の場合、生命保険会社は、契約締結時に確定した保険料で長期保証を提供する。持続可能な方法でこれらの保証を確実に満たすためには、商法上の準備金を保険料準備金の形で認識しなければならない。低金利段階での投資収益の減少を防ぐために、生命保険会社は2011年以来、Zinszusatzreserve(追加金利引当金)を構築しなければならなかった。2017年末までに、ZZRは約600億ユーロ -保険契約者のための相当かつ基本的な安全クッション-に成長したと想定されている。
固定保証無しの商品に対する傾向
低金利に対応して、固定金利保証付きの伝統的な保険契約について、引き続き提供している会社もあるけれども、もはや提供していない会社もある。セクター全体が固定保証無しの商品に移行している。結局のところ、BaFinが何年もそうすることを求めてきたことと全く同じ、より多様化した商品が登場してきている。
外部へのランオフは答えなのか?
少数の生命保険会社は、事業を外部へランオフさせることで、低金利に対処することを決断した。これは、つまり、新契約を取り止め、ポートフォリオの一部又は全部を売却又は移転することを意味している。現在、ドイツでは3つのランオフプラットフォームが活動している。1つの申請が現在BaFinによって評価されている。新しい申請は、プレスの時点までに、BaFinに到達しておらず、また発表されていなかった。したがって、現時点で大きなランオフ(流出)トレンドについて話すことは適切ではない。
専門的なランオフプロバイダーやオペレーターを含め、ポートフォリオを移転することは時には適切な場合がある。しかし、この問題は、ポートフォリオを取得する会社が、既存の全ての契約上の義務を満たし、監督当局の全ての規制を遵守しなければならないにもかかわらず、保険契約者の間での懸念を引き起こしていることである。
さらに、BaFinがまず協定の全ての詳細を精査しなければ、外部へのランオフは起こらない。「BaFinは保険契約者の利益が完全に保護されている場合にのみ売却又は譲渡を受け付ける。」とGrund CEDは強調する。
「この取引の結果として悪化することになるという点において、利益が保護されていない一人の保険契約者がいたとしても、承認を得られない」と同氏は述べた。「私たちには、このような事態を防ぐ優れたツールがある。」
3―まとめ
研究領域:保険
研究・専門分野