糖質制限ダイエットのルーツは、アメリカ人医師のロバート・アトキンス博士が考案した炭水化物の摂取を制限する「アトキンスダイエット」にある。
まず糖質とは何か、糖質制限することの意義について説明する。
糖質とは、炭水化物、タンパク質、脂質の三大栄養素のうちの炭水化物の一部で、炭水化物は、糖質と食物繊維の二つからなる。糖質は、人にとって重要なエネルギー源のひとつになることはもちろん、脳や神経の活動を左右するエネルギー源になる。糖質というと、甘いものというイメージがあるが、糖質を含む食品には、甘い食品(EX.お菓子、果物)とそうでない食品(EX.ご飯、パン、小麦粉)の両方あることに注意する必要がある。
糖質をとると血糖値が上昇し、それを抑えるためにインスリンが分泌される。インスリンは分泌されると血液中のブドウ糖を筋肉に送ってグリコーゲンという形で蓄積する一方で、余ったブドウ糖を中性脂肪に変えて脂肪細胞に蓄積するため、内臓脂肪が増加することになる。これが太る原因になる。そのため、糖質を制限することで、インスリンの分泌を抑え、内臓脂肪を貯めこまないようにして、太りにくくするのが、いわゆる糖質制限ダイエットである
1。それでは、糖質を制限するとエネルギー源がなくなってしまうのではないかと、心配になるが、実は、糖質を制限すると、人間の体は、体内のエネルギーをまかなうため、体脂肪を分解してエネルギー源とする。また、そのとき生じる遊離脂肪酸が多いと、肝臓に運ばれて、ケトン体が合成される。このケトン体も遊離脂肪酸同様に糖質の替わりにエネルギー源となる。そのため、1日50グラム以下に糖質を制限するレベルの糖質制限ダイエットは、ケトン体ダイエットとも言われている。
Rでは、ダイエット期間中の糖質を一日50グラムまでに制限するよう私の場合は指導された。また、糖質以外の食事については、バランスよく、特に、葉物野菜とタンパク質を多くとるように指導される。
一般的な食事をしていると日本人は、一日で糖質を200から300グラムくらいとっているといわれている。ご飯軽く一膳は、糖質約60グラムになるので、糖質を一日50グラムに抑えるためには、ご飯、パン、うどん、そば、パスタなどの主食はもちろんのこと、お菓子、果物などの甘いものもほとんど控えるようアドバイスを受ける。
なお、本当にこうした糖質制限をしてよいかについて心配だったので、事前にいろいろな文献、レポートをあたって調べてみた。
糖質制限については、賛否両論あり、200から300グラムの糖質をとっている日本人が諸外国の方に比べて、糖質を取りすぎているということは間違いないが、一方で、糖質制限を支持する人の中でも極端な長期に亘る糖質制限は、医学的に安全とはいいがたいので、注意が必要という意見が多い。そこで、私が、方針として採用したのは、「一日50グラム以下の糖質制限は短期間限定で行うのであれば許容される」というものだった。
(2018年3月の東北大学大学院の農学研究科の都築毅准教授らの研究によると、約1年に亘る糖質制限食についてのマウスを使った実験により、一般的な食事を与えたマウスの多くは、平均寿命より長生きしたが、糖質制限食では平均寿命まで生きられないという結果になり、しかも糖質制限の個体は見た目も一般食の個体に比べて、背骨の曲がりや脱毛がひどく、老化の進度が30%も高いという研究成果を学会発表している。ただし、これはインスリン遺伝子を2本も持ち合わせ、人と違って高脂肪食で食べ過ぎを起こすマウスなればこそのデータともいわれている。)
短期間とは、集中ダイエット期間の6ヶ月以内をめどとした。(2006年に報告されたNordmannのレポートによると、「低炭水化物ダイエットは6ヶ月までに有意な体重減少をもたらすが、1年で、低炭水化物制限を行った群団と、総エネルギーと脂質制限を行った群団では、両群に有意な差がなくなり、低炭水化物食では血中LDL(悪玉)コルステロールの増加をきたす」と指摘している。ただし、2012年に報告されたSantosらのレポートでは、「低炭水化物ダイエットは6ヶ月まででも、12ヶ月まででも、24ヶ月まででも体重、血圧、血糖、一部の脂質プロファイルの改善に有効である」としている。)一日の糖質摂取を50グラム以下に制限して、1年以上続けるなどの長期間に亘る糖質制限は、医学的にも安全性が確立されていないという意見が多く、明確な結論は出ていないが、自分を実験台に使うのは、止めたほうがいいと思う。
それでは糖質摂取の水準を、集中ダイエット期間後はどのあたりにすればいいかというと、日本糖尿病学会が2013年3月に発表した、「日本人の糖尿病の食事療法に関する日本糖尿病学会の提言」が参考になりそうだ。このレポートによると、「糖尿病における三大栄養素の推奨摂取比率は、一般的には、炭水化物50~60%エネルギー(150グラム/日以上)、たんぱく質20%エネルギー以下を目安とし、残りを脂質とする」と提言されており、炭水化物摂取は一日150グラムがひとつの目安になりそうだ。(日本糖尿病学会の提言には、個人差や既往症によっては、炭水化物の摂取比率を増減させることを考慮しても良いとされており、あくまでも目安である。)
糖質制限については、糖質さえとらなければ何でもいくら食べても飲んでもいいといったやり方で行うことは問題があると思う。たとえば、タンパク質を補うために大量の脂っこいステーキを食べるとか、糖質のないウィスキーや焼酎はいくら飲んでもかまわないと思っている人もいる(実際そのように書いてある本もある)が、動物性の脂質を大量にとると、体重が落ちにくくなるし、血中LDLコレステロールが上がるリスクもある。また糖質制限時には、肝臓が働いてケトン体を作るためにかなり負荷がかかるため、アルコールを大量に飲むと、肝臓が疲弊してしまい、実際自分でも体調が悪くなるといった事象を体験した。したがって、ケトン体を作るためにある程度のタンパク質、脂質は必要だが、過剰な摂取は好ましくないと思う。何事もほどほどが大切だと思う。
1 最近のHarvard大学のグループから提唱された仮説では、糖質摂取後のインスリン分泌による血中エネルギー基質の欠乏が飢餓感から食べ過ぎを生むともされており、糖質制限ダイエットは自動的に(満腹感を得ながら)食べ過ぎを予防する方法とも考えられるようになった。
3―実際の食事内容について