東京の賃貸マンション投資で留意すべき経年と賃料の関係

2018年09月05日

(吉田 資) 不動産市場・不動産市況

機関投資家や年金基金は、不動産投資に対して、オルタナティブ投資全般に求める「分散投資効果」や「リターンの向上」の他、「安定的なインカムゲインの確保」を期待している1。賃貸マンションは、オフィスや商業施設等と比較して賃料変動が小さい傾向にあり、この期待に即した投資対象といえる。

図表1は、世界主要都市における賃貸マンションの新規賃料の推移を示したものである。東京の新規賃料は、世界主要都市(ニューヨーク・ロンドン・シンガポール)と比較して、安定的に上昇している。東京の賃貸住宅需要は、世界有数の人口規模と持続的な人口流入に支えられ底堅く、賃料の安定的な上昇に寄与している。国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口」によれば、東京都の人口増加は、2030 年まで続くと予測されており、東京の賃貸住宅需要は、今後も堅調に推移すると見込まれる。

1 三井住友トラスト基礎研究所「不動産投資に関する調査 2017 年」によれば、年金基金・機関投資家が不動産投資を行う理由として、「安定的なインカムゲインの確保」との回答が最も多かった。
一方で、賃貸マンションの賃料は、一般的に、築年数の経過に伴い下落する。長期投資を前提とする不動産投資では、新規賃料の動向とともに、築年数が経過しても賃料が大幅に下がらない物件を見極めることが重要となる。

図表2は、J-REIT(不動産投資信託)が保有する賃貸マンションの賃料データから推計した築年数の経過に伴う賃料下落率(区別)を示したものである2。築年数が1年経過した時の賃料下落率が0.4%未満の区を青、1.2%以上の区を赤で表示した。城北地域(北区・板橋区)や都心部の新宿区・港区、江戸川区では、築年数の経過による賃料下落が大きい傾向がみられる。これに対して、従来から住宅地として人気が高い城南・城西地域の目黒区・世田谷区・杉並区では、築年数の経過による賃料下落は比較的小幅であった。同じ東京都区部においても、地域によって、築年数の経過が賃料に及ぼす影響が大きく異なる。

図表3はJ-REIT(不動産投資信託)が新規に取得した賃貸マンションの平均築年数を示している。当初、平均築年数は2年程度と、築浅物件を中心とした取得であったが、その後、投資適格物件の枯渇等に伴い、上昇傾向にあり、2018 年は約10 年となっている。

築年数の経過に伴う賃料下落を抑制し、安定的なインカムゲインを長期的に享受するためには、適切な「資本的支出」(不動産の価値や耐久性を増すことに対する投資)が不可欠となる。今後、築年数の経過した投資物件が増加する中で、経年劣化による賃料下落の地域差等を考慮し、費用対効果の高い「資本的支出」を行う不動産マネジメント力がこれまで以上に求められると思われる。

金融研究部   主任研究員

吉田 資(よしだ たすく)

研究領域:不動産

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴

【職歴】
 2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
 2018年 ニッセイ基礎研究所

【加入団体等】
 一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

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