26 「好きになる睡眠医学 第2版」内田直著(講談社サイエンティフィク)より。
27 AASMは、American Academy of Sleep Medicineの略。ICSDは、International Classification of Sleep Disordersの略。なお、ICSD-3の翻訳については、「睡眠障害の診断と分類(ICSD-3)」清水徹男(「高齢者の睡眠とその障害」, 公益財団法人 長寿科学振興財団, 平成28年度業績集, pp71-79)を参考にしている。
1) 不眠症
不眠の原因には、さまざまなものがある。たとえば、ストレスが原因のもの。病気が原因のもの。加齢によって睡眠が変化したものなどである。不眠症の症状には、なかなか寝付けない「入眠障害」。睡眠途中で何度も目が覚める「中途覚醒」。朝、異常に早く目が覚める「早朝覚醒」の3つがある
28。
特に、うつ病による特徴的な障害は、早朝覚醒とされる。夜間の入眠は速やかにできるが、明け方の2時、3時には目覚めてしまい、その後朝まで眠れずに悶々(もんもん)と過ごす。
28 ICSD-2には、眠りが浅い「熟眠障害」もあったが、熟眠の定量化が困難で客観性に欠けるためICSD-3では削除された。
2) 睡眠関連呼吸障害群
睡眠中に何回も呼吸が止まる「睡眠時無呼吸症候群(SAS
29)」がある。鼻と喉の間にある咽頭が閉塞して起こる閉塞性のものと、脳の呼吸中枢からの呼吸の司令が一時的に滞って呼吸が停止する中枢性のものがある。閉塞性の場合、閉塞部分を空気が通過するときに大きな音がいびきとなって発せられることがある。中枢性の場合は、鼻の気流や胸部の動きはない。SASの中には、最初は中枢性で、後に閉塞性のパターンを示す混成タイプの障害もある。いずれも脳の酸素が不足して、人格変化やうつ状態に至る恐れがある。
29 英語では、Sleep Apnea Syndromeの頭文字をとって、SASと呼ばれる。
3) 中枢性過眠症群
昼間、人との会話中や運転中などに突然眠り込んでしまう「ナルコレプシー(睡眠発作)
30」。眠り始めに、恐ろしい夢をみる「入眠時幻覚」。眠り始めにレム睡眠
31が起こることで、金縛りの状態となる「睡眠麻痺」。驚いたり笑ったり喜んだりする強い情動があったときに、突然全身の力が抜けてしまい、ぐったりした状態になる「カタプレキシー(情動脱力発作)」がある。
30 「ナルコ」は「眠気」、「レプシー」は「発作」を指す。
31 レム睡眠は、大脳が起きていて、身体が眠っている状態を指す。(後編(次稿)にて、詳述予定)
4) 概日リズム睡眠・覚醒障害群
本来、人の睡眠・覚醒のリズムは25時間として回っている。社会生活で、夜ほぼ同じ時刻に眠り、朝決まった時刻に起きることで、1日24時間のリズムができている。仮に、睡眠の時間が不定で、眠くなったら寝るという生活を続けると、入眠時間が毎日30分程度遅くなり目覚める時刻も遅くなる
32。
32 人が本来持っている固有のリズムで生活することは、「フリーラン」と呼ばれる。フリーランの状態で生活を続けると、睡眠時間がだんだん遅くなっていく。人は日々、地球の自転に合わせて、体内時計を概ね24時間のリズムに調整している。概日リズムは、この調整された約1日のリズムを意味する、circadian rhythmの訳語。
5) 睡眠時随伴症群
この症群には、さまざまな病態の疾病が入る。寝ぼけの状態に暴力的な行動などが伴う「削減性覚醒」。睡眠中に突然起き上がって目を開いて歩き出す「睡眠時遊行症(夢遊病)」。睡眠時に突然起き上がり激しい恐怖感とともに、大声で叫んだり泣いたりする「睡眠時驚愕症(夜驚症)」などがある。また、睡眠時に突然起き出して、家族に暴力を振るう「レム睡眠行動障害」。睡眠麻痺の症状(金縛りの状態)が、ナルコレプシーの発作がないまま反復して起こる「反復孤発性睡眠麻痺」。何度も悪夢をみて、起きた後にその恐ろしさをおぼえている「悪夢性障害」がある。さらに、いわゆるおねしょを指す「睡眠時遺尿症」。睡眠時に起き出して冷蔵庫をあけて食品を貪り食う「睡眠関連摂食障害」もある。
6) 睡眠関連運動障害群
睡眠時に、身体や動作に障害が生じることもある。眠ろうとすると、脚がむずむずする「レストレスレッグス(むずむず脚)症候群」。睡眠時に足首の屈曲、膝の蹴るような動き、肘のすばやい曲げ伸ばしを伴う「周期性四肢運動障害」。睡眠時に足がつる「睡眠関連こむらがえり」。睡眠時に歯ぎしりをする「睡眠関連歯ぎしり」。睡眠時に体を律動的に揺すったり、腹ばいで寝ながら頭を持ち上げては落とすといった動作をする「睡眠関連律動性運動障害」などがある。
ここで、睡眠障害の患者割合の推移をみてみよう。実は、非器質性の睡眠障害、睡眠時遊行症(夢遊病)、睡眠時驚愕症(夜驚症)などは、すでにみた図表23の「その他の精神疾患」の中に含まれている。しかし、その患者数は1.2万人(2014年)と限定的である。ここでは、図表23には含まれていないものの、患者数55.3万人(同)
33と睡眠障害の大半を占める、器質性
34の睡眠障害、睡眠時無呼吸症候群(SAS)、ナルコレプシー(睡眠発作)、カタプレキシー(情動脱力発作)などについてみてみる。