かつては、統合失調症は、妄想型、解体型、緊張型などと、いくつかの型に分類されていた
20。しかし、病気の経過によって型が変化したり、厳密な区別が難しかったりしたことから、DSM-5では型の使用はとりやめとなっている。本稿では、統合失調症の症状を概観するために、あえて以前使われていた型をもとにみていくこととしたい。
17 公益社団法人 日本精神神経学会のホームページより。なお、病名の候補として、英語名をカタカナ表記した「スキゾフレニア」や、この病気の確立に係わる医学者の名前を組み合わせた「クレペリン・ブロイラー症候群」なども検討された。
18 「最新図解 やさしくわかる精神医学」上島国利 監修(ナツメ社)より。
19 「本当にわかる 精神科の薬はじめの一歩 改訂版」稲田健編(羊土社)より。
20 この他に、妄想型、解体型、緊張型に分類できない鑑別不能型。一度統合失調症になった人に、軽い妄想、幻覚、会話・行動の異常が残っている場合や、喜怒哀楽の感情が乏しく意欲や考えが乏しいといった陰性症状が残っている場合の残遺型があった。
1) 妄想型
日々生活の中で、周囲の出来事を予兆と感じて、妄想を抱く。自分は他人よりすぐれていると信じ、自己を過大評価する「誇大妄想」。他人から危害を加えられる、苦しめられるなど、被害を受けると信じる「被害妄想」。自分が誰かに愛されているという「被愛妄想」。自分は空虚で世界は存在せず、この世は生きる価値がないとする「虚無妄想」などがみられる。さらに妄想が最高度にまで高じると、"恐ろしい災いが切迫している"、"無類の大災害がやってくる"、"世界戦争が起きる"、"この世界が破滅する"といった「世界没落体験」が生じることもある
21。
また、別の形の妄想として、自分の考えが周囲に知れ渡っているという「考想伝播」、自分は世間から絶えず見張られているという「注察妄想」にさいなまれることもある。
21 「世界没落体験」は、ドイツ語のWeltuntergangserlebnis を和訳したもの。なお、ノルウェーの画家ムンクは、代表作「叫び」を描いているが、この作品は、統合失調症の影響による世界没落体験と幻聴を絵にしたものであるとされている。
2) 解体型
陰性症状として、感情の起伏がなくなったり、意欲が減退したりする。一方、陽性症状として、会話や行動のまとまりがなくなり、支離滅裂なことを言って周囲とのコミュニケーションがとれなくなる。会議などで突然クスクス笑い出したり大声で叫んだりして、出席者を驚かせてしまうこともある。
3) 緊張型
激しい運動性の興奮や、あるいはまったく逆に無動・無言などが中心的な症状となる。あらゆる指示や要求に対して抵抗を示す「拒絶症」。奇妙な姿勢をとり続ける「蝋屈症」。同じ行動を繰り返す「常同行動」。相手の動作をそのまま真似する「反響動作」。話し相手の言葉をおうむ返しに答える「反響言語」などがみられる。
統合失調症の経過は、患者によってさまざまとなる。比較的短期間で治癒する人がいる一方、何度も回復・再発を繰り返す人もいる。また、完全に治癒する人がいる一方、変化がみられなかったり、症状が次第に進行したりする人もいる。なお、青年期に発症した患者が老年に達して症状が回復する「老年軽快」という現象もみられる。統合失調症は、症状の先読みが難しい病気といえる。