6|精神医療では、医師以外にも多くのコメディカルスタッフが活躍している
精神医療は、精神科医を中心とした医師だけで成り立っているわけではない。医療機関や地域社会の中で、医師と多様なコメディカルスタッフが協働して、チーム医療を行っている。
(1) 主に医療施設で活躍するコメディカルスタッフ
1) 看護師および准看護師
看護師は、高校卒業が要件で、特定の診療科ではなくすべての科について履修する。3,000時間以上の講義と1,035時間以上の実習を履修した上で、国家試験に合格して資格を得る。
一方、准看護師は、中学校卒業が要件で、1,890時間以上の講義と735時間以上の実習を履修した上で、都道府県の実施する試験に合格することで資格を得る
8。
2014年には、精神科病院で看護に従事している看護師は53,096人、准看護師は29,820人(いずれも常勤換算)となっている
9。
8 「ルポ 看護の質-患者の命は守られるのか」小林美希著(岩波書店, 岩波新書(新赤版)1614, 2016年)より。
9 看護師には、専門看護師の資格がある。通算5年以上の実務研修(うち3年以上は精神看護)を受け、看護系大学院で修士課程を修了して必要な単位を取得した後、日本看護協会の認定審査(書類審査と筆記試験)をパスすると、精神看護専門看護師となる。なお、13ある専門看護分野で、精神看護はがん看護と並んで、認定開始が最も古くから(1996年~)行われている。
2) 臨床心理士 (および公認心理師)
臨床心理士は、患者に対する精神療法を医師とともにあるいは単独で行う。心理検査を行うセラピストとして、個人でクリニックを開業するケースもある。公益財団法人日本臨床心理士資格認定協会が資格試験を実施している。2018年4月時点の資格認定者数は、34,504人となっている。
2017年には公認心理師法が成立し、国家資格である公認心理師が生まれることとなった。2018年9月に第1回試験が実施される予定である。公認心理師は、国民のこころの健康の保持・促進を担う専門職と位置づけられており、臨床心理士とともに、こころの病気の患者への精神療法等を担っていく。
3) 作業療法士
作業療法士は、工芸、陶芸、手芸や、軽い農作業などの作業を通じて、入院中の患者が退院して復職するなど、社会生活へ復帰するための援助をする。1965年に、国家資格となった。高校卒業後、知識と技能を3年間修得することが受験の要件となっている。2014年には、精神科病院で従事している作業療法士は6,372人(常勤換算)となっている。
4) 薬剤師
薬剤師は、医薬品の成分や効果の説明、正しい服用方法、副作用の予防など、服薬に関する患者への指導を行う。特に精神医療では、薬物療法が治療の大きな領域を占めるため、服薬の管理・指導は病状回復のための重要な要素となる。薬剤師は、大学の薬学部を卒業して、国家試験に合格することで資格を得る。2014年には、精神科病院で従事している薬剤師は3,005人(常勤換算)となっている
10。
10 精神科については、一般の薬剤師より専門性が高い精神科薬物療法認定薬剤師があり、2017年には206人が資格を得ている。さらにその上位の専門性を修得した精神科専門薬剤師もおり、2018年には48人が資格を得ている。
(2) 主に地域社会で活躍するコメディカルスタッフ
1) 保健師
保健師は、地域の精神衛生相談、訪問指導、精神保健の啓発活動などに従事している。通院治療中の精神医療の患者に対して、精神科デイケア(通所訓練プログラム)を行っている自治体では、デイケアセンターで保健師が活動している
111。保健師は、大学の保健師課程や、看護師が保健師養成所・大学院・短大専攻科で同課程を履修した上で、国家試験に合格することで資格を得る。
11 2017年には常勤の保健師が34,522人おり、精神医療のみならず全ての保健領域で活動している。
2) 精神保健福祉士
精神保健福祉士(精神科ソーシャル・ワーカー)は、医療機関や保健所などで患者の相談に応じて日常生活を送るための援助を行う。たとえば、公営住宅への入居や各種公的給付金の受取手続きなど、公的支援を受けるための手配。規則的な生活や金銭の自己管理など自立した生活に必要な訓練などの援助を行っている。1997年に、国家資格となった。精神障害の保健・福祉に関連した科目を修了して4年制大学を卒業したか、それと同等と評価できる養成課程を修了したことが受験要件となっている
12。
12 2018年3月時点で、80,891人が資格取得者として、登録されている。
以上のとおり、精神医療は、多くのコメディカルスタッフの活躍で成り立っている。近年は、精神保健福祉士、作業療法士、臨床心理士の人数の伸びが著しい。現在の医療は、多職種によるチーム医療をベースに進められることが一般的となっている。そこでは、診療・カウンセリングの際の患者の反応や、薬剤の服薬状況など、多くの情報をスタッフ間で共有することが不可欠となる。ICTツールを活用した円滑なコミュニケーションの実践が、精神医療の質を大きく左右するものとなろう。