(3)日本におけるクラウドワーカーに対する対応
在宅ワーカーの場合は雇用保険の被保険者ではないものの、公的医療保険や公的年金に加入できる。まず公的医療保険の場合、在宅ワーカー自らの収入が130万円未満かつ配偶者等の年収の半分未満であれば、配偶者等が加入する健康保険組合や共済組合の被扶養者として医療が受けられる。配偶者等が健康保険組合や共済組合等の他の医療保険に加入していない場合には国民健康保険に加入することになる。
公的年金の場合は、配偶者が厚生年金の加入者で、在宅ワーカー自らの収入が130万円未満かつ配偶者の年収の半分未満の人のうち、20歳以上60歳未満の人は、国民年金の第3号被保険者となる。また、配偶者がいない場合や自営業の場合、あるいは配偶者が勤め人でも、在宅ワーカー自らの収入が130万円以上か又は配偶者の年収の半分以上の場合には、国民年金の第1号被保険者となる。
一方、家内労働者やその補助者の場合は、希望により労災保険に特別に加入することができることになっている。家内労働者とは、通常、自宅を作業場として、メーカーや問屋などの委託者から、部品や原材料の提供を受けて、一人または同居の親族とともに、物品の製造や加工などを行い、その労働に対して工賃を受け取る人で、2011年10月1日現在、12万8,709人で、女性が90.1%を占めている。特別加入できるのは、年間を通じ常態として次の作業に従事する家内労働者及び補助者である。
(1)プレス機械、型付け機、型打ち機、シャー、旋盤、ボール盤又はフライス盤を使用して行う金属、合成樹脂、皮、ゴム、布又は紙の加工の作業
(2)研削盤若しくはバフ盤を使用して行う研削若しくは研磨又は溶融した鉛を用いて行う金属の焼入れ若しくは焼きもどしの作業であって、金属製洋食器、刃物、バルブ又はコックの製造又は加工に係るもの
(3)有機溶剤又は有機溶剤含有物を用いて行う作業であって、化学物質製、皮製若しくは布製の履物、鞄、袋物、服装用ベルト、グラブ若しくはミット又は木製若しくは合成樹脂製の漆器の製造又は加工に係るもの
(4)粉じん作業又は鉛化合物を含有する釉薬を用いて行う施釉若しくは鉛化合物を含有する絵具を用いて行う絵付けの作業若しくは当該施釉若しくは絵付けを行った物の焼成の作業であって陶磁器の製造に係るもの
(5)動力により駆動される合糸機、ねん糸機又は織機を使用して行う作業
(6)木工機械を使用して行う作業であって、仏壇又は木製若しくは竹製の食器の製造又は加工に係るもの
また、家内労働者等の場合は、必要経費の特例が適用され、所得を計算する際に必要経費として65万円までの控除が認められている
日本政府は特定企業に属さずに働くフリーランスを支援する目的で、失業や出産の際に所得補償を受け取れる団体保険の創設を提言しており、損害保険大手と商品を設計し、2018年度から民間で発売する計画であったものの、まだ実現されていない。2016年10月より短時間労働者に対する健康保険・
厚生年金保険の
適用拡大が始まり、以前に比べて多くの非正規労働者が公的社会保険の恩恵を受けるようになったものの、フリーランスやクラウドワーカーとして働いている人については、雇用保険もなければ、傷病手当金も、産休・育休やその間の補償も、介護休暇・休業もその間の補償も全くなく、社会保障制度が手薄な面がある。
フリーランスのみならず、雇用者などが病気やケガで働けなくなり「就業不能状態」になった場合に、就業不能給付金を支払う就業不能保険は、2010年からすでに販売されている。例えば、ライフネット生命が販売し始めた就業不能保険は、最初は180日間就業不能状態となった場合給付金が支払われたものの、最近はその期間が60日間に短くなった。但し、加入対象は、年齢が20歳から60歳までで、安定した勤労所得のある人と主婦・主夫に制限されている。つまり、学生、年金生活者、資産生活者、無職などに該当する人や年収が100万円以下の人(主婦・主夫を除く)は申し込むことができない。図表3でも確認したように、フリーランスの収入水準がそれほど高くないことを考慮すると、現在、政府が導入を検討している団体保険の早期実現のための取り組みを急ぐ必要がある。
一方、フリーランスに対する団体保険の導入等が議論される中で、損害保険ジャパン日本興亜株式会社(以下、損保ジャパン日本興亜)は、一般社団法人プロフェショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会(以下、フリーランス協会)と連携し、フリーランス協会に加入している一般会員向けに、各種損害保険や福利厚生サービスなどをパッケージにした『ベネフィットプラン』の提供を今年の7月から開始している。『ベネフィットプラン』の特徴は次の通りである
20。
(1)フリーランスとしての業務遂行に伴う賠償責任を補償
フリーランス協会に所属するすべての一般会員を対象に、フリーランスとしての業務遂行に伴い、法律上の損害賠償責任を負担することによって被る損害を補償する。
【主な損害の種類】
・業務遂行中の身体障害や財物損壊、PL責任(納品物、生産物など)
・情報漏えい、納品物の瑕疵、著作権侵害、(偶然な事故に起因する)納期遅延など
(2)通常よりも47.5%割安な所得補償制度に加入可能
病気やケガによる就業不能時の所得補償や万が一の事故による傷害補償について、フリー
ランスが個別で加入するよりも 47.5%割安な所得補償制度に任意で加入することができる。
(3)福利厚生サービス「WELBOX」の提供
フリーランス協会に所属するすべての一般会員を対象に、株式会社イーウェルの福利厚生
サービス「WELBOX」を提供する。健診・人間ドック優待や各種相談ダイヤルなどの
サービスが利用できる。
20 損保ジャパン日本興亜(2017)「【国内初】フリーランス向け福利厚生制度 『ベネフィットプラン』の提供開始」2017年4月26日から引用。
6――結びに代えて