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契約内容の平易・明確化、情報提供に係る改正
まず法第3条(契約内容の平易・明確化と情報提供の努力義務)にかかる改正がある(上記①に係る改正)。
具体的には2点あり、1点目は契約内容を明確化するにあたって「その解釈について疑義の生じない」ようにするという文言が加わったことである。この改正の背景には「条項使用者不利の原則」を明文化するかどうかの議論があった。条項使用者不利の原則とは、契約の条項について、解釈を尽くしてもなお複数の解釈の可能性が残る場合には、条項の使用者(作成者)に不利な解釈を採用すべきであるという考え方である。
この点、実業界等から、解釈にあたって条項が二義的であれば、他の事情はともかく、とにかく条項を作成した側に不利に解釈すべきというように解釈されるおそれがある等の問題提起がなされた結果、「条項使用者不利の
原則の理由となった部分を明確化することについてはコンセンサスがあった」
4として「その解釈について疑義の生じない」という文言を付加することになったという経緯がある。
この点に関しては、消費者契約で「条項使用者不利の原則」に明確に触れた判例がまだ存在しないこと、また「条項使用者不利の原則」も含め解釈のプロセス(契約者間の理解、表現の意味などにかかる解釈手順)についていまだ固まったものがないということがある。また、保険契約に関して言えば、たとえば災害入院医療特約などでは不慮の事故で入院した場合を給付対象としている。不慮の事故とは「急激かつ偶発的な外来の事故」とされているが、この解釈がしばしば裁判でも問題となる。しかし、起こりうるすべてのケースを規定することはとうてい不可能であることから、「条項使用者不利の原則」が規定されれば、疑義の生じたケースはすべて不慮の事故とされてしまうことにもなりかねず、「条項使用者不利の原則」の条文化は現状のままでは不適当と考えられ、今回の改正案でも条文化はなされなかった
5。
2点目は事業者の勧誘に当たって、「物品、権利、役務その他の消費者契約の目的となるものの性質に応じ、個々の消費者の知識および経験を考慮した上で」情報提供することに努めるとされたことである。情報提供義務については以前より、どの水準の情報を提供すべきかの議論がある。具体的には、相手が一般人としての理解能力を持っており、そのことを前提とした情報提供をすればよいのか、相手の個々事情まで配慮したうえで情報提供すべきか、ということである。一般論としては、情報提供義務は一般人が理解できる程度の情報提供を行えばよいと通常、解されており、それに加え、たとえば金融商品では金融商品販売法で、説明は「顧客の知識、経験、財産の状況及び当該金融商品の販売に係る契約を締結する目的に照らして、当該顧客に理解されるために必要な方法及び程度によるものでなければならない。」とされているように個別に定められる(金融商品の販売に関する法律第3条第2項)。また、ワラントなど金融商品について顧客属性を踏まえて説明すべきとする裁判例もある。
この点、努力義務とはいえ、知識・経験を考慮した上で情報提供を努めるべきとしたことには、法が消費者契約すべてを対象にしていることを考えると、保険募集においても一定のインパクトがあろう
6。
なお、本改正については、消費者委員会の「成年年齢引き下げ対応ワーキンググループ」からの要請を受けて改正を行った側面があるものの、「知識及び経験」と「年齢」は重なるものとして、考慮要件として「年齢」は明文化されなかった
7。
4 消費者委員会 消費者契約法専門委員会「消費者契約法専門調査会報告書(以下「報告書」)」(平成29年8月)13ページ参照
5 この点について一般社団法人日本損害保険協会が詳細な問題提起をしている。同協会の第37回消費者契約法専門委員会ヒアリング資料参照。
6 ただし、「消費者契約の目的となるものの性質に応じ」との限定があることに注意。
7 前掲注4「報告書」14ページ参照。