代表的仮想通貨であるビットコインは、2008年11月にサトシ・ナカモトと称する人物が、非中央集権的なシステムで利用者同士が直接資金のやり取りをするという仮想通貨のシステムの基本構想を示した論文を発表したのが端緒で(注1)、2009年には実際に取引が始まった。ビットコインには、取引をまとめて記録した塊(ブロック)を次々につなげて記録するブロックチェーンという技術が利用されている。この技術はビットコインを支える技術として登場したが、通貨としての利用以外にも、様々な金融取引や不動産の管理、著作権の管理など幅広い応用が期待されている。本稿ではブロックチェーン技術全体やその詳細な説明は参考文献(注2,3)に譲り、主に代表的な仮想通貨であるビットコインを例に経済的な問題を中心に技術的な説明に深入りせず単純化して考察したい。
仮想通貨としては、最初に登場したビットコインが代表的で有名だが、インターネット上には1594種類(2018年3月時点)もの仮想通貨がリストアップされているように(注4)、仮想通貨と呼ばれるものは極めて多様だ。仮想通貨には暗号の技術が使われているため、海外では暗号通貨(cryptocurrency)と呼ばれている。2018年3月にアルゼンチンで開催されたG20では、初めて仮想通貨が議題となったが、円やドルのような法定通貨が持っている重要な性質を持っていないとして、通貨ではなく「暗号資産」と呼んでいる。本稿では、日本で一般的に使われている「仮想通貨」と言う用語を使うこととする。
2017年4月から施行されている日本の改正資金決済法(資金決済に関する法律)では仮想通貨を、電子的な方法で記録されている財産的価値で、電子情報処理組織(インターネットなど)を用いて代金支払いなどに使用したり相互に交換したりできるものと規定している。
仮想通貨は、「国家による裏付けがない」ということが特徴として指摘されることが多いが、BIS(国際決済銀行)は3月に「中央銀行が発行するデジタル通貨」と題する報告書を発表しており、中央銀行が仮想通貨を発行する可能性も議論されてきた。現実に、仮想通貨と呼ばれるものの中には、ベネズエラ政府が発行するペトロのように国家が発行するものも出てきた。また、資金決済法では日本の円や外国の通貨で表示されているものは除くとされているように、仮想通貨は独自の通貨単位を持ち、多くは円やドル建ての価値が大きく変動している。しかし、テザー(Tether)やBitUSDのように、その価値が米ドルやユーロのような既存の各国通貨に連動するタイプのものも登場している。
仮想通貨は中央で管理する機関がないことが特徴として挙げられることが多い。テザーのようにTether Limitedという発行や管理を行なう組織があるものもあるが、これは例外的で、ビットコインのような分散型の仮想通貨には、円やドルのように中央銀行のような発行や管理を行なう組織が存在しない。分散型の仮想通貨では、インターネット上に分散したプログラムによって、予め決められたルールに従って新しい通貨が発行されていく。ビットコインでは一定期間に発行されるビットコインの量は次第に減少していき、2140年頃に2100万ビットコインで上限に達するように設計されている。また仮想通貨は既存のシステムに比べて送金手数料が極めて安いことが利点としてあげられて来た。
仮想通貨全体の時価総額は、一時8000億ドル(約90兆円)を超えたが(注4)、これほどの規模となると経済に与える影響も無視できなくなっている。これまで多くの国では中央銀行が法定通貨を発行してきたが、仮想通貨を利用した経済活動が拡大していけば、貨幣価値とは紙の裏表の関係にある物価に影響を与え、国や中央銀行が行なってきた経済政策にも大きな影響を与える可能性がある。
1――注目集める仮想通貨