1|調査概要
EIOPAは、NSAs(National Supervisory Authorities:国家監督当局)に対し、LTG措置又は株式リスク措置が保険契約者保護に与える影響、特に措置適用の承認取消のケースや不適切な資本救済ケースについての観測を報告するように求めた。
過度の資本救済は、技術的準備金や資本要件の不適切に低い金額が、保険契約者の保護に悪影響を及ぼすことになる。NSAsは、通常、LTG措置及び株式リスク措置の適用が会社のソルベンシーポジションに及ぼす影響を監視している。
2|調査結果
NSAsからのフィードバックは、LTG措置又は株式リスク措置の適用による会社に対する過度の資本救済が観察された具体的な事例はまだない、としている。LTG措置と株式リスク措置が保険契約保護に与える肯定的又は否定的な影響の具体的な観察はなかった。さらに、措置の適用が、NSAsが保険契約者保護に望ましいと考えた監督措置を取ることを妨げた具体的なケースも、NSAsによって特定されなかった。
3|NSAsによる評価手法
(1)VA
VA に関しては、NSAsは通常、VAをゼロに設定することの影響を評価している。いくつかのNSAsは、実際の投資収益、ポートフォリオの構成と信用の質の変化、投資戦略を考慮して、会社の投資ポートフォリオを監視すると報告した。これには、VAの決定に使用される「基準ポートフォリオ」との比較や、資産を維持する能力(資産の強制売却のリスクに直面しているか)が含まれる。いくつかのNSAsは特に、会社が実際にVA(で設定されている利回り)を獲得することができるかどうかの問題に焦点を当てていることを概説している。この目的のために、会社が実際に獲得した金利とVAの規模との比較又は遡及的なチェックが提案されている。これらの評価はケースバイケースで行われるが、自動チェックは行われない。そのため、NSAのプロセスは、VAの承認プロセスが予見されるかどうかによって異なっている。
(2)MA
MAに関して、あるNSAは、過度の資本救済のケースが発生しているかどうかを評価する際に、SCR計算及び自己資本決定に自信があるかどうかを評価する。SCR計算が(標準式の不適合又は内部モデルの誤較正のため)資産のポートフォリオに内在するリスクを考慮して適切であるかどうか、及び(フロアの較正不足又は会社による資産の不正確なマッピングのため)基本スプレッドの不正確な較正により、自己資本が過大評価されているかどうか、が分析される。
4|NSAsによる具体的な調査結果
ソルベンシーII指令の第37(1)(d)項によれば、MA、VA又は移行措置を適用する会社に対して、その会社のリスクプロファイルがこれらの調整及び経過措置の基礎となる仮定から大幅に逸脱していると監督当局が判断した場合、資本アドオンを適用することができる。観察結果を考慮すると、結果として、どのNSAも、不当な資本救済の観察された事例に基づく資本アドオンをまだ課していなかった。
2つのNSAs(FR、LU)は、TTPの適用承認の取消を報告した。その理由は、会社がその措置を適用しなかったか若しくはもうこれ以上適用しなかったからである。
1つのNSAは、申請者がMAポートフォリオに含めることに適格でない資産を含めることを提案していたため、MAの申請を拒否した。
MAからの過度の資本逃避は、資産と負債の不適切なマッチング、負債の流動性が十分でなく及び/又は基本スプレッドの較正が不利な信用事象のリスクに対して適切なバッファーを提供しない場合のMAの適用から発生する。
この分析は、基本スプレッドの較正によって期待されたよりも、MAのポートフォリオにおいてより多くの不利な信用事象が発生しているかどうかに焦点を当てている。
MAを適用する許可を得た企業は、2016年に経験したデフォルト及び/又は格下げによる損失と、2016年に想定された基本スプレッドに関する情報を提供するよう求められた。
34件の回答があった(英国から19件、スペインから15件)。
どの会社もデフォルトからの損失を報告しなかったが、これはいかなる投資グレードの債務不履行も観察されなかった、より広い市場における状況と整合的なものであった。
6つのMAポートフォリオを含む5つの会社が、格下げからの損失を報告した。これは、当該資産の除外に先立って行われた格下げ後に、当該資産が2016年にポートフォリオから除外された場合に発生した損失である。これらの会社のうちの2つについては、ポートフォリオ損失の割合は、それらのポートフォリオの65bpsから71bpsの間の基本スプレッドと比較して、およそ2bpsであった。その他の4つのポートフォリオは、ポートフォリオの41bpsと59bpsの間の基本スプレッドと比較して、1bp未満のデフォルトによる損失を被った。
我々は、より広い市場が、報告された損失から推測されるよりも広範囲に及ぶ格上げ及び格下げを経験したことに留意する。報告された損失の水準が低い理由の1つは、保険会社がポートフォリオ内で格下げされた資産を保有していたことが考えられる。
基本スプレッドは、デフォルト及び格下げの長期平均コストを吸収するように設計されている(ソルベンシーII指令の77c(2))。これは、単一の期間に直接匹敵するものではないと予想される。確かに、上記のように、2016年は平均よりも低いデフォルトを示している。この比較を毎年継続することは、基本スプレッドが不利な信用事象の費用を吸収するには十分でない期間を特定するのに役立つはずである。
3―保険会社の投資への影響