2|経済財政諮問会議、財務省のプレッシャー
これに対し、経済財政諮問会議(議長:安倍晋三首相)や財務省は都道府県の権限行使に期待感を示していた。まず、経済財政諮問会議では、地域医療構想による病床削減を通じて医療費適正化を進めようとしており、昨年6月に閣議決定された「骨太方針2017」では地域医療構想の実効性を高めるため、「調整会議の具体的議論を促進する」「病床の役割分担を進めるためのデータを国から提供し、個別の病院名や転換する病床数などの具体的対応方針の速やかな策定に向けて、2年間程度で集中的な検討を促進する」と規定し、具体的な議論が進まない場合に備えるため、「都道府県知事がその役割を適切に発揮できるよう、権限の在り方について、速やかに関係審議会等において検討を進める」と定めていた。
この点については、経済財政諮問会議を中心に2015年12月に策定した「経済・財政再生アクション・プログラム」でも同じである。具体的には、「2014年の法律改正で新たに設けた権限の行使状況などを勘案した上で、関係審議会等において検討し、結論。検討の結果に基づいて2020年央までに必要な措置を講ずる」との考えを盛り込んでおり、毎年末に改定される工程表でも同じ表現が踏襲されている。
財務省も都道府県の権限強化を求めている。財政制度等審議会(財務相の諮問機関)が年2回まとめる建議(意見書)に盛り込まれた文言の変遷を見ると、病床過剰地域で病床を新設しても健康保険法の保険医療機関として認めない医療計画制度と同じ手法に傾斜しつつ、都道府県の権限強化を求めていることが分かる。
以下、建議の文言を詳しく見ていこう。まず、2014年12月の建議では「権限の的確な行使のための環境整備」という表現にとどまっていたが、2015年6月の建議で「勧告に従わない病院の報酬単価減額などの措置」に言及した。これは都道府県の勧告に従わない民間医療機関に対し、1点10円の報酬単価を引き下げることで、都道府県が病床削減を進めることに期待感を示した文言と言える
12。
さらに、2015年11月の建議では「保険医療機関の指定に係る都道府県の権限の一層の強化といった課題に明確な実施期限を設定して取り組んでいく必要がある」と指摘しており、「保険医療機関の指定」という文言が登場する。その後も「民間医療機関への保険医療機関の指定等にあたり、他施設への転換命令等を付与するなど、医療保険上の指定に係る都道府県の権限を一層強化すべき」(2016年11月)、「要請・勧告に応じない場合に保険医療機関の指定をしないことを可能とするなど、医療機能の転換等に係る民間医療機関への都道府県知事の権限を強化すべき」(2017年5月)などと、主張を具体化させた。
こうして見ると、財務省は医療費適正化を図る観点に立ち、病床削減に関する都道府県の権限強化を主張するだけでなく、地域医療構想に基づく病床削減を進める方法論として、医療計画制度で用いている手法、つまり保険医療機関に指定しない方法を求めている様子が見て取れる。厚生労働省が「進め方」の作成に際して、4年前は「想定していない」と述べていた権限行使に言及することになった一因として、こうしたプレッシャーがあったことは間違いないだろう。
12 併せて、2015年6月の建議では高齢者医療確保法第14条に言及しつつ、医療費の地域差を解消するため、都道府県独自の報酬単価を設定する必要性を指摘した。これも都道府県の権限強化に位置付けられるが、本レポートでは触れない。