(イ) 不動産市場への影響
WeWorkが勢力を拡大することで、オフィス需要に、量的・質的な影響を及ぼすと考えられる。
量的な影響としては、AmazonのAWSを活用することで市場全体が効率化し、個社毎のサーバー需要が減少するのと同様に、企業によるオフィス需要が中長期的に減少する可能性が高いだろう。もちろんコワーキングスペースの普及は、マイナスの影響だけを持つわけではない。例えば、自宅などで仕事をしていたスタートアップやフリーランスがコワーキングスペースを活用することで、オフィス需要が増加する影響もある。しかし、大企業を含め、これまでオフィスを所有もしくは賃貸していた企業がコワーキングスペースを活用するケースが増えており、その影響が上回ると考えられる。WeWorkが日本で2018年に開設する3拠点
25の1メンバー当たりのオフィス面積は1.45坪
26であり、東京23 区の平均的な1人あたりオフィス面積は3.81 坪
27の4割弱に過ぎない。
質的な影響としては、Aクラスビルと呼ばれるようなプライムビルの需要が相対的に増加すると考える。Amazon Web Services, Inc. CEOのアンディー・ジャシー氏がAWSについて、「世界的大企業と同じインフラストラクチャーを寮に住む大学生が使える世界を考えたのです
28」と述べたように、コワーキングスペースはスタートアップやフリーランス、中小企業に大企業と同等のオフィス環境を享受することを可能にする。WeWorkは2018年にGinza Sixに拠点を開くが、従来であれば、資本力のない企業が同様のプライムビルにオフィスを構えることはできなかった。これまでプライムビルの借り手の多くは大企業だったが、今後はコワーキングスペースによって小口化されることで、中小企業のオフィス需要もプライムビルに向かうようになる。そのため、従来は小規模ビルなどに入居していた企業のオフィス需要がプライムビルに移る可能性がある。
また、現在WeWorkは、コワーキングスペースのメンバーを主な課金サイドとしているが、プラットフォームの規模がさらに拡大していけば、プラットフォームに参加する他のユーザー・グループからの収益を拡大していくことが可能となる。WeWorkのビジネスモデルでは、メンバー数を拡大することが重要である。そのため、AmazonがECプラットフォームの収益をもとに配送コストを無料にしたのと同様に、プラットフォームから得た収益を活用して、メンバーへのプライシングを引下げてくる可能性がある。その場合は、よりグレードの高いオフィスビルに現在同様の料金で提供することも、現在同様のオフィスビルでより低い料金を提供することも可能になるだろう。前者はプライムビルの賃貸需要を高め、後者は賃料の低いオフィスビルの賃貸需要を押下げるが、いずれにせよ、プライムビルの需要が相対的に大きくなるという点に変わりない。
以上を総合すると、WeWorkの事業が拡大した場合、全体としてはオフィス市況に対して下押し圧力となり、また加えて、プライムビルの相対的優位性がより高まる可能性がある。
25 WeWork ArkHills、WeWork Ginza Six、WeWork Shinbashi。
26 日経不動産マーケット情報 (2017) をもとにニッセイ基礎研究所試算。この面積は、米国でのWeWorkの平均と同等である(Loizos and Neumann (2017))。
27 ザイマックス不動産総合研究所 (2017) 参照。
28 Stone (2013) 参照。
2.おわりに