コラム

EVと日本車の未来

2017年10月31日

(矢嶋 康次) 金融市場・外国為替(通貨・相場)

ゲームチェンジを仕掛ける中国

中国は9月にEV(電気自動車)などの生産を一定割合義務付ける新エネルギー車規制を19年から導入すると発表した。規制と中国政府による補助金で中国国内の自動車をEV化しようとしている。

深刻な環境問題対策としてEV化は避けて通れないが、中国の意図は別にある。今まで日本と欧米が席巻していた自動車産業を、EVを推進することで勢力図を塗り替えようとしている。

キャッチアップでガソリン車の性能を上げることがこの先もできたとしても日本や欧米を抜くことはできない。だとすればゲームチェンジを行い、中国が強みのあるEVでひっくり返そうという戦略だ。中国だけでなく、インド、イギリス、フランスもEV化を宣言。将来予想では2020年に累計2000万台に増加との予想もでてきている。ここにきてトヨタは20年までにEVの量産体制を整えて本格参入する方針を示したが、世界対比で見るとEVへの対応は遅れていると見られている。

日本はどう対応すべきなのか?EVは新車販売の1%なのか、将来の変化の前倒しなのか

世界のEV化の実現性については、2つの見方がある。

ひとつは現在世界の新車販売台数に占めるEVの割合は1%に満たない。リチウム電池などの性能の限界もあり、それほど世界でも広がることはない。当然市場の大半はガソリン車であり今までのように日本の優位は保たれるとの見方だ。

もうひとつは、自動車売上げの最大市場の中国でEV需要が拡大すれば投資が加速し、リチウム電池などの技術にもブレークスルーがおき、EV市場がいま予想されている以上に急拡大するという見方だ。そうなると日本の自動車産業が今のように世界のメインであり続けるためには、世界一位の市場である中国で勝ち抜かなければならない。そのためにはEVの開発を急ぐ必要がある。

日本にとって自動車産業は中心の産業だ。自動車製造業の出荷額は主要製造業の約2割、自動車の輸出額も全体の約2割。関連産業就業人口は全体の約1割の雇用(約550万人)を占める。

EVは、ガソリン車と違って、日本の強みであった擦り合わせ技術のメリットが使えない。今までにない産業提携や連携が必要不可決だ。EV化は日本の自動車産業に甚大な影響を与える。

成長戦略との関係、期限をきった戦略で積みあがる内部留保の投資先となる可能性も

筆者自身は、世界的に地殻変動となりつつあるEV化に対して、企業レベルだけでなく国も関与の度合いを高めるべき時期に来ていると考える。

世界的に企業の金余り現象があり、どこの国もEV化を推進することで、企業の設備投資や研究開発を一気に起こす政策をとってくるに違いない。

日本では内部留保が400兆円を超えてきている。これを動かすために内部留保課税などの議論もでているが、それよりは、国内でもEV化などで、いつまでにどういう社会を実現するといった、おしりを決めた成長戦略を書くことで、内部留保が動く素地が出来てくると感じる。

総合政策研究部   常務理事 チーフエコノミスト・経済研究部 兼任

矢嶋 康次(やじま やすひで)

研究領域:金融・為替

研究・専門分野
金融財政政策、日本経済 

経歴

・ 1992年 :日本生命保険相互会社
・ 1995年 :ニッセイ基礎研究所へ
・ 2021年から現職
・ 早稲田大学・政治経済学部(2004年度~2006年度・2008年度)、上智大学・経済学部(2006年度~2014年度)非常勤講師を兼務
・ 2015年 参議院予算委員会調査室 客員調査員

第54回 エコノミスト賞(毎日新聞社主催)受賞 『非伝統的金融政策の経済分析』

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