アクチュアリー気候指数の開発-異常気象の発生度合いは、指数で表せるか?

2017年09月12日

(篠原 拓也) 保険計理

4――今回公表された指数のこれまでの推移

ここで、今回公表された指数のこれまでの推移を、見ておこう。指数には、毎月の指数と季節ごとの指数がある。また、それぞれに単月(季節)の指数と、5年平均の指数がある。アメリカとカナダのアクチュアリー会が、主として公表しているのは、季節ごとの5年平均の指数の推移となっている。これを、全体のACIと、各項目ごとに示すと、次の図表の通りとなる。
1961年から1990年は参照期間であり、この期間に渡るACI等の平均は0となる。ACI等の推移を見ると、実際に、横軸の付近で推移している。1991年以降、ACIの数値は、徐々に高くなっている。2016年秋期(9~11月)には、5年平均のACIは、1.07となっている。近年、北米の気候の異常度合いが高まっていることが、定量的に示されている。

項目ごとに見ると、高温、低温の負値6、降水、海水面の4つは、長期的に上昇傾向にあることがうかがえる。これらは、ACIと同様、それぞれの異常度合いが高まっているものと見ることができる。

一方、乾燥と強風の2項目については、ACIとはあまり関係なく、独自の変動を見せている。特に、乾燥は、他の項目に比べて、上下の振幅の幅が大きい。これらについては、年ごとの違いの観測を、慎重に進めていく必要があるものと考えられる。
 
6 6つの項目のうち、低温だけは、乖離が負の方向に進んでいく。このため、低温は負値をとってみていく必要がある。ACIの計算式では、低温は負値をとって、他の項目との平均を計算する。
 

5――リスク指数の開発

5――リスク指数の開発

ACIは、気候の異常度合いを表す指数である。その異常が、経済に与える影響を定量的に表すために、アクチュアリー気候リスク指数(Actuaries Climate Risk Index, ACRI)の開発が進められてきた。ACRIは、ACIの構成要素の6つの項目と、経済損失・人的損失との相関関係を表す指数である。アメリカについては、Spatial Hazard Events and Losses Database for the United States(SHELDUS)、カナダについては、Canadian Disaster Databaseのデータが用いられる。

ACRIは、北米地域における保険事業での活用を目的としている。これまでの分析で、次のような相関関係が確認されている7
アメリカアクチュアリー会(American Academy of Actuaries, AAA)によると、ACRIは、2018年の第1四半期までに公表される見通しとなっている。
 
 
7 相関関係が見られなかった地域については、他の地域の平均や、他の特定の地域のもので代用することとしている。
 

6――ヨーロッパの動向

6――ヨーロッパの動向

ACIに対しては、ヨーロッパのアクチュアリーから、強い関心が寄せられている。特に、イギリスでは、ACIをヨーロッパで導入する場合の試算や、課題の分析が行われている。そして、その結論として、指数の計算方法については、特に変更なく用いることができる。問題となるのは、指数の計算に用いるデータの設定や取得についてであるとしている。分析では、具体的なデータの候補を挙げて、長所・短所の整理を行っている8
 
 
8 "Extension of the Actuaries Climate Index to the UK and Europe"(C. L. Curry, December 2015)より。
 

7――おわりに (私見)

7――おわりに (私見)

地球温暖化を背景に、グローバルな気候変動が進みつつあると言われる。日本でも、スーパー台風9の襲来や、ゲリラ豪雨10等の異常気象への懸念が、高まっているものと見られる。こうした懸念を定量的に示すために、データの指数化は、重要と考えられる。北米でのアクチュアリー会による気候指数や気候リスク指数の開発の動きは、こうした取り組みの先鞭をつけるものとなっている。今後、同様の取り組みが、ヨーロッパをはじめ、世界的に広がっていくことが考えられる。

日本でも、これから、気候変動の「見える化」が、ますます求められるようになるだろう。そうしたことを念頭に置きつつ、欧米での指数化の動きを、ウォッチしていく必要があろう。
 
9 アメリカ海軍の合同台風警報センター(JTWC)は、最大風速(10分間平均)が130ノット(秒速約67メートル)以上の熱帯低気圧を、スーパー台風として統計をとっている。なお、日本では、気象庁が、34ノット(秒速約17メートル)以上のものを、台風としている。このうち、105ノット(秒速約54メートル)以上のものを、猛烈な台風としている。
10 気象庁の用語では、集中豪雨(同じような場所で数時間にわたり強く降り、100mmから数百mmの雨量をもたらす雨)や、局地的大雨(急に強く降り、数十分の短時間に狭い範囲に数十mm程度の雨量をもたらす雨)が用いられる。
レポートについてお問い合わせ
(取材・講演依頼)