貸出・マネタリー統計(17年8月)~不動産向け融資の減速が鮮明に

2017年09月11日

(上野 剛志) 金融市場・外国為替(通貨・相場)

3.マネーストック: 広義流動性の伸びが上昇

9月11日に発表された8月のマネーストック統計によると、市中に供給された通貨量の代表的指標であるM2(現金、国内銀行などの預金)平均残高の伸び率は前年比4.0%(前月も4.0%)、M3(M2にゆうちょ銀など全預金取扱金融機関の預貯金を含む)の伸び率は同3.4%(前月も3.4%)とそれぞれ前月から横ばいとなった(図表9)。それぞれ、比較的高い伸びを維持しており、高水準の経常黒字や貸出の増加などが寄与しているとみられる。
M3の内訳では、現金通貨の伸び率が前年比4.8%(前月は4.6%)と上昇する一方、普通預金などの預金通貨の伸び率は前年比7.9%(前月は8.0%)とやや低下した(図表10)。預金通貨の伸びが8%を下回ったのは12ヵ月ぶり。マイナス金利導入以降、普通預金へ資金をシフトさせる動きが続いたが、最近は企業において一服がみられる。その他では、CD(譲渡性預金、前月改定値0.3%→当月▲0.2%)が減少に転じた一方、準通貨(定期預金など、前月▲1.3%→当月▲1.2%)はマイナス幅を小幅に縮小した。
また、M3に投信や外債といったリスク性資産等を含めた広義流動性の伸び率は前年比3.7%(前月改定値は3.5%)と上昇し、2015年10月以来の高い伸びとなった(図表9)。

内訳を見ると、残高規模の大きい金銭の信託(前月4.9%→当月6.5%)がプラス幅を大きく拡大し、牽引役となった(図表11)。投資信託(元本ベース)の伸び率(前月改定値▲0.2%→当月▲0.2%)は引き続き前年比では小幅なマイナスが続いているが、残高(102.7兆円)は6月を底として2ヵ月連続で増加している。

引き続き、リスク性資産への投資に底入れの兆しがうかがわれるが、地政学リスクの緊迫化など投資環境は不透明感を増しているだけに、影響が注目される。
 
 

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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志(うえの つよし)

研究領域:金融・為替

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴

・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
・ 2007年 日本経済研究センター派遣
・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

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