以上見てきたとおり、健康保険組合のデータを中心とするデータを使って分析した結果、骨折率、骨折部位、受診期間は性別・年齢によって異なっていた。
骨折が多いのは、男性では10~14歳、女性では高齢期だった。男性も高齢期の骨折は多いが、女性の骨折率が50歳代から急に高まっているのに対し、男性は70~74歳で急に高くなっていた。時系列でみると、子ども時代と高齢期ともに、骨折率は増加傾向にあった。
骨折部位についてみると、子ども時代では「肩及び上腕の骨折(S42)」「前腕の骨折(S52)」、高齢期では「肋骨,胸骨及び胸椎骨折(S22)」「腰椎及び骨盤の骨折(S32)」「大腿骨骨折(S72)」等の部位がそれぞれ相対的に多いのが特徴的だった。
子ども時代として10~14歳の骨折について詳細をみると、骨折が多い順に5つの部位で全骨折の9割を占めており、時系列でみても大きな変化はなかった。
受診期間は部位によって差はあるもののおおむね4~6か月で全骨折者の95%が受診を終えていた。この長さは時系列でみても、大きな変化はなかった。
高齢期の骨折として、65~74歳の「肋骨,胸骨及び胸椎骨折(S22)」「腰椎及び骨盤の骨折(S32)」「大腿骨骨折(S72)」の骨折について詳細をみると、「肋骨,胸骨及び胸椎骨折(S22)」「腰椎及び骨盤の骨折(S32)」の骨折率はやや減少傾向にあった。
全骨折者の95%が受診を終了するまでにかかる期間は、「大腿骨骨折(S72)」と「腰椎及び骨盤の骨折(S32)」で、他の部位より長く10か月だった。子ども時代と比較可能な「前腕の骨折(S52)」「下腿の骨折,足首を含む(S82)」「足の骨折,足首を除く(S92)」についてみると、手術率は高齢期の方が低かったが、入院率は高齢期の方が高く、受診終了までの期間は高齢期の方が3~5か月間長かった。受診期間を時系列でみると、子ども時代と異なり、いずれの部位も短縮していた。
子ども時代の骨折の増加については、食生活の変化によって骨の成長に必要な栄養素を摂取できていない可能性や、筋力の低下、日照不足により骨が弱くなったこと、運動不足により自分自身の身体をコントロールできずに転倒することが増加していること等が指摘されることが多い。一方で、10歳代では、クラブ活動中に骨折することが多いことが知られており、体格が良くなったことによって運動等の場面でより高度な技術を使うようになったことも一因として考えられている
6。
骨折増加の原因を特定し、子ども時代にも骨量を把握することや、体格にあった運動を行うなど、骨折率増加を食い止める必要があるだろう。仮に、子ども時代の骨折の増加が、骨が弱くなったことによるものだとすると、現在の子ども世代が高齢期になった時、現在以上に骨折が増える懸念がある。骨量は、20歳代で最大値となると言われており、高齢期の骨折や骨折の重症化を予防するためには、若い頃に十分に骨量を増やしておくことが有効とされている
7。
高齢期の骨折については、近年、以前ほどは腰が曲がった高齢者を見かけなくなったこと等から、骨や筋肉の状態は、従前と比べると改善しているように思われる。しかし、今回のデータで60歳代は男女とも骨折率が増加した理由として、元気な高齢者が増えたことで活動の幅が広がっている可能性が考えられる。医療機関を受診する期間は短くなっていたことから、骨折後の回復が改善した可能性と、特に「大腿骨骨折(S72)」で短縮していることから、医科的治療を終え、早々に介護保険によるリハビリテーション等に移行している可能性が考えられる。
高齢期の骨折予防としては、転倒防止のために筋力を増強すること、視力を管理すること、自宅を一部改造すること等が言われている。今回のデータでは女性は50歳代から急増するため、早めに対策を行うことが重要だろう。
6 日本スポーツ振興センター学校安全WEB『学校管理下における児童生徒のケガの特徴について』より。
7 「健康日本21」のサイト『骨粗鬆症財団の取り組みについて』等。