(2)認知症の原因
認知症には、いくつかの原因が挙げられている。そのうち、アルツハイマー病
56、脳血管性認知症
57、レビー小体型認知症
58、前頭側頭葉変性症
59が、代表的なものとなっている。日本では、アルツハイマー病が、全体の6割以上と最も多い。次いで、脳血管性認知症が約2割を占める
60。レビー小体型認知症、前頭側頭葉変性症が、これに続く。アルツハイマー病では、女性の方が、男性よりも有病率、発症率が高いとされる。一方、脳血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭葉変性症では、出現頻度の男女の差について、一致した結果は得られていないとされる
61。
認知症の患者には、記憶障害、見当識障害
62、実行機能障害
63、理解・判断能力障害、計算能力障害などの中核症状と呼ばれる症状が生じる。また、抑うつ症状、暴力・暴言、幻視・幻聴、妄想などの周辺症状(BPSD
64)が、併発することも多い。特に、女性の場合、抑うつ症状が現れることが多いとされる
65。
56 アミロイドβと呼ばれるタンパク質が脳の神経細胞の働きを邪魔することで、記憶を司る海馬などが萎縮する。その結果、記憶障害や見当識障害などが生じる。病名は、ドイツの精神医学者アルツハイマーが初めて報告したことにちなむ。(「40歳からの『認知症予防』入門」伊古田俊夫(講談社, 2016年, ブルーバックス B-1988)などより(次の注記57~59も同様))
57 脳卒中(脳梗塞や脳出血、くも膜下出血)の後遺症で起きる。歩行や言語に障害が出たり、意欲が低下して無気力・無関心になったりする。脳卒中を予防することで、この認知症の予防は可能とされる。
58 気分の高揚・落ち込み・動揺、幻視、自律神経に関する症状(失神発作、頑固な便秘、発汗障害など)が起きる。レビー小体は、脳の神経細胞にできるα-シヌクレインなどの特殊なタンバク質で、パーキンソン病の患者にも見られる。病名は、レビー小体を発見した、ドイツ生まれの神経学者フレデリック・レビーにちなむ。
59 患者は、人柄や行動に変化が生じる。例えば、順番待ちの列に割り込むなど、常識や社会のルールを逸脱した行動をとる。症状が進むと、同じことを繰り返す常同行動や、毎日決まった時刻に同じ行動をとる時刻表的行動が起きることもある。
60 「日本における認知症の高齢者人口の将来推計に関する研究 平成26年度 総括・分担研究報告書」研究代表者 二宮利治(厚生労働科学研究費補助金 厚生労働科学特別研究事業, 2015年3月)より。
61 「女性医療とメンタルケア」久保田俊郎・松島英介編(創造出版, 2012年)第1章 中高年のうつ病と認知症の項などより。
62 現在自己の置かれている状況の認識が正常に行われない状態。例えば、時間・季節・場所・人の認識が困難となる。
63 目的をもった一連の行動を自立して有効に成し遂げるために必要な機能に障害が生じること。例えば、料理が困難となる。
64 BPSDは、Behavioral and Psychological Symptoms of Dementiaの略。
65 「女性医療とメンタルケア」久保田俊郎・松島英介編(創造出版, 2012年)第1章 中高年のうつ病と認知症の項などより。なお、男性のBPSDは、暴力・暴言などの攻撃性のものの頻度が高いとされている。
(3)認知症の回復可能性と軽度認知障害(MCI)
一般に、認知症は、不可逆的に認知機能が低下する、と言われている。このため、治療をしても、完治することは困難とされている。ただし、アルコール関連障害、甲状腺機能低下症、正常圧水頭症、慢性硬膜下血腫、ビタミン欠乏症の場合は、早期の発見・治療によって、回復が可能と見られている。
認知症の前段階として、軽度認知障害(Mild Cognitive Impairment, MCI)がある。MCIは、その名前の通り、軽度な認知機能の低下を有する状態とされる。MCIを放置しておくと、高い確率で認知症に移行する一方、MCIの段階で適切に処置を行えば、健康な状態に回復する可能性があるとされている。2012年の時点で、日本には、MCIの段階にある人が、男女合わせて、400万人いるとされている
66。
認知症の患者の進行を遅らせる取り組みと、MCIの段階にある人を発見して、早期に治療を開始することが、現在の認知症対策の主眼となっている。
66 「都市部における認知症有病率と認知症の生活機能障害への対応 総合研究報告書」研究代表者 朝田隆(厚生労働科学研究費補助金 認知症対策総合研究事業, 平成23年度~平成24年度, 2013年3月)より
3――女性医療サービスの提供