(1) 月経期
前の月経周期で卵子が受精しなかった場合、月経期に入る。不要になった子宮内膜が脱落し、月経として、子宮からの出血とともに排出される。正常月経では、出血が3~7日間持続する。正常な出血量は、20~140ミリリットルとされる
7。この期に、基礎体温
8は、低下していく。月経とともに、軽度の頭痛、吐き気、腹痛などを伴うことがある。痛みが重度の場合、月経困難症(後述)の症状を呈する場合もある。
(2) 卵胞期
卵胞期には、女性ホルモンの1つである、エストロゲンが分泌される。このホルモンによって、子宮内膜の増殖が促される。この期には、基礎体温は低い。心身が安定し、体調は良好とされる。
(3) 排卵期
エストロゲンの分泌がピークを迎えると、排卵期に移行する。排卵は、次の月経開始予定日の約2週間前に起こる。この期に、卵子が卵管に入る。卵管で、精子と受精すると、受精卵となって、着床、妊娠に至る可能性がある。受精しなかった場合には、卵子は卵管を経由して、子宮に向かい、膣外に排出される。この期には、腹痛を伴うことがある。基礎体温は、排卵期に移行する前に一旦低下した後、排卵期移行後に上昇していく。
(4) 黄体期
排卵期の後は、黄体期に移行する。黄体期には、女性ホルモンの1つである、プロゲステロンが分泌される。このホルモンは、卵子が精子と受精して受精卵となった場合、受精卵が子宮内膜に着床しやすい状態に整える機能を持つ。また、妊娠が成立した後は、妊娠を継続させる働きがある。この期には、基礎体温は高いまま推移する。また、この期には、イライラ感や眠気、憂うつ、乳房痛、腹部の張りなど、心身の不調を伴うことがある。月経前症候群(後述)の症状を呈する場合もある。
6 本節は、「女性医療のすべて」太田博明編(メディカルレビュー社, 2016年)、「あなたも名医! プライマリケア現場での女性診療 - 押さえておきたい33のポイント」池田裕美枝・対馬ルリ子 編(日本医事新報社, jmed mook 47, 2016年)による。
7 この範囲を超える出血が見られ、日常生活に支障が出るほどになると過多月経とされる。また、この範囲を下回る出血の場合、過少月経とされる。ただし、実際の出血量を測ることは困難なため、血塊の排出等により診断されることが多い。
8 体温に影響する各種因子を極力除いた条件での正常の体温。正常の卵巣機能の成人女子では、排卵後黄体期に高体温を示し、卵胞期に低体温を示す。従って体温曲線から排卵および卵巣機能を推定しうる。卵巣機能検査・避妊に利用。
5|女性ホルモンには、主に、卵胞ホルモンと、黄体ホルモンの2種類がある
女性の心身の変化において、不可欠な要素として、女性ホルモンがある。第二次性徴の発現をはじめ、月経周期の確立、妊娠・出産、更年期・閉経、老年期の疾患に至るまで、女性ホルモンの分泌が密接に関係している。主な女性ホルモンとして、卵胞ホルモンと、黄体ホルモンの2種類がある。
(1)卵胞ホルモン
卵胞ホルモンは、エストロゲンとも呼ばれる。エストロゲンは、女性らしさをつくるホルモンとされる。このホルモンには、女性らしいカラダをつくり、子宮に作用し、妊娠に備えて子宮の内膜を厚くする働きがある。
(2)黄体ホルモン
一方、黄体ホルモンには、代表的なものとして、プロゲステロンがある。プロゲステロンは、妊娠を助けるホルモンとされる。このホルモンには、受精卵が子宮内膜に着床しやすい状態に整える働きがある。また、妊娠成立後に、妊娠を継続させる働きもある。
女性ホルモンのうち、エストロゲンは自律神経に作用する。このため、例えば、更年期にエストロゲンの分泌が急激に低下すると、ほてり・のぼせ・多汗などの更年期障害(後編で、詳述)につながる。
また、エストロゲンもプロゲステロンも、セロトニンという、脳内神経伝達物質の分泌に影響する。セロトニンは、脳を最適な覚醒状態にしたり、心のバランスを整える効果があるとされる。このため、その分泌が滞ると、イライラ感や、抑うつなど、心理状態に影響を与えるとされる。
これらを踏まえて、次章からは、各ライフステージごとに、女性医療について見ていくこととする。
2――胎児・乳児・幼児期~思春期