日銀短観6月調査では、注目度の高い大企業製造業の業況判断D.I.が17と前回3月調査比で5ポイント上昇し、3四半期連続で景況感の改善が示された。大企業非製造業の業況判断D.I.も23と前回比3ポイント上昇し、2四半期連続の改善となった。
前回3月調査では、輸出の回復や円安の持続を受けて大企業製造業で2四半期連続の改善となったほか、非製造業でも消費の持ち直しなどから、6四半期ぶりに景況感が持ち直していた。
17年1-3月期の実質GDP(国内総生産)成長率は前期比年率で1.0%(2次速報値)となり、5四半期連続で(0%台後半とされる)潜在成長率を上回るプラス成長となった。その後、4月以降の経済指標も総じて堅調に推移している。4-5月の輸出(数量指数)は伸びこそ鈍化したものの、世界経済の回復やITサイクルの好転を受けて高い水準を維持している。消費面では、個人消費の総合的な動きを示す4月の消費活動指数(実質)に改善がみられるほか、5月の新車販売台数(軽自動車を含む)は、前年比12.4%増と7カ月連続で増加を維持。個人消費は力強さにこそ欠けるものの、雇用所得環境の改善を受けて持ち直している。結果として、4-5月の鉱工業生産指数は1-3月平均を2%強上回っている。また、円相場は、前回調査以降、やや円高に振れる場面もあったが、概ね安定した推移を辿っている。
今回、大企業製造業では良好な輸出環境や為替の安定、消費の持ち直しを受けた生産回復により、景況感が改善した。非製造業も消費の持ち直しが景況感の改善に繋がったほか、大都市圏での再開発事業や16年度第2次補正予算の執行、五輪需要等が建設領域の支援材料になった。
中小企業の業況判断D.I.は、製造業が前回比2ポイント上昇の7、非製造業は3ポイント上昇の7となった。大企業同様、中小企業でも堅調な内外需要を受けて、製造業・非製造業ともに景況感の改善が示された。
一方、先行きの景況感については、企業規模や製造・非製造業を問わず、慎重な見方が示された。引き続き海外情勢の不透明感が根強いことが影響したとみられる。仏大統領選を無難に通過したことで欧州の政治リスクは後退したが、ロシアゲート疑惑の渦中にあるトランプ政権の先行き不透明感は強い。また、難航が予想される英国のEU離脱や出口の見えない北朝鮮情勢など地政学リスクへの警戒も根強く残っているとみられる。また、国内に関しても、人手不足に加え、今後物価の上昇が予想されることから、消費等に悪影響が出る懸念が台頭したとみられる。
なお、事前の市場予想との対比では、注目度の高い大企業製造業については、足元(QUICK集計15、当社予想も15)、先行き(QUICK集計14、当社予想は15)ともに市場予想を上回った。大企業非製造業は、足元(QUICK集計23、当社予想は22)は予想と一致したものの、先行き(QUICK集計21、当社予想は19)は予想を下回った。
2016年度の設備投資実績(全規模全産業)は、前年度比0.4%増と前回調査時点(0.4%増)から横ばいとなった。辛うじて前年度比増加を維持したものの、実績の伸び率としては2011年度(0.0%)以来の低水準となった。昨年度は、欧米政治の混乱や上期の円高進行などから事業環境の不透明感が強まり、企業で様子見姿勢が広がったためとみられる。
2017年度の設備投資計画(全規模全産業)は、2016年度実績比で2.9%増と前回調査時点の1.3%減から上方修正された。例年6月調査では、計画が固まってくることで大幅に上方修正される傾向が極めて強い。前回調査で、近年の3月調査での伸び率をかなり上回る計画が示されたことで発射台が高かっただけに、今回調査でも近年の同時期の中で比較的高い伸び率となったが、比較対象となる16年度の実績が低いことがプラスに働いている面もある。従って、実勢としては底堅いものの、未だ力強さには欠けるとの評価が妥当だろう。企業収益の改善は設備投資の追い風ながら、海外情勢をめぐる不透明感が強い状況が続いており、現段階において投資を大きく積極化する動きは限られている模様。
今回の短観では、企業景況感の改善が確認されたほか、企業の強い人手不足感が引き続き示され、日銀の先行きの景気回復・物価上昇シナリオをサポートする材料になるだろう。
ただし、この結果が日銀の金融政策に直接与える影響は限定的になる。もともと残された追加緩和の余地が小さいうえ、米大統領選後の円高是正と原油価格持ち直しが波及することで物価上昇率は持ち直しに向かうとみられ、当面、日銀が追加緩和を迫られる可能性は低下している。一方で目標である物価上昇率2%達成は見通せず、金融政策の正常化に入れる段階にも全くない。黒田総裁も認めているとおり、デフレマインドが根強く残っており、物価上昇の勢いは鈍い。
日銀は、今回の短観の内容も含めて経済・物価情勢を注視しながら、粘り強く現行金融政策を継続するだろう。
2.業況判断D.I.:堅調な内外需要を受けて、幅広く改善