訪問介護・通所介護の現状-介護職員不足は、どのように解消すべきか?

2017年05月23日

(篠原 拓也) 保険計理

5――介護スタッフの働きがい

職員の働きがいを見るには、賃金・就業形態、労働条件、キャリア形成、仕事の達成感(例. サービス利用者からの感謝)など、いくつかの側面がある。以下、公表データをもとに、概観していこう。

1介護職員の賃金上昇が図られているが、非常勤の職員への波及は限定的
介護関係の職種の賃金は、全職種と比べて低い。加えて、20~50歳代にかけての賃金上昇傾向が、見られない。これにより、職員の現在の生計の苦しさと、将来の生計の不安につながる可能性がある。
なお、就労形態では、訪問介護は、非正規職員の割合が高い。また、男女別には、女性割合が高い。
介護職員の給与面の処遇改善に向けて、2012年より、介護報酬の項目の1つとして介護職員処遇改善加算が設けられている。2015、2017年度には、加算区分の増設などの改定が行われている。
この加算により、常勤職員の給与については、訪問介護で3.6%、通所介護で3%増加するなど、一定の政策効果が現れている。一方、非常勤職員の給与を見ると、通所介護は3%増加しているが、訪問介護は2.2%の伸びにとどまっており、効果の発現は、一様ではない。
2介護職員の業務軽減と、社会的評価の向上が課題
介護職員は、なぜ介護の仕事を選択したのか。調査結果では、「働きがいのある仕事だと思ったから」が最も多く、「資格・技能が活かせるから」、「今後もニーズが高まる仕事だから」、「人や社会の役に立ちたいから」、「お年寄りが好きだから」、「介護の知識や技能が身につくから」などが続いている。
一方、労働条件等の不満については、「人手が足りない」との声が多い。これは、2015年度には、半数を超えるところまで増加している。そして、「仕事内容のわりに賃金が低い」、「有給休暇が取りにくい」、「身体的負担が大きい(腰痛や体力に不安がある)」、「業務に対する社会的評価が低い」などが続いている。労働環境が厳しい上に、社会的評価が低いとの不満が、年々高まっていると言える。
3短時間労働の介護職員の離職率・採用率は、全産業よりも低い
常勤の介護職員の離職率は、全産業に比べて高い。これを補うために、高い採用率となっている。一方、短時間労働の介護職員は、離職率が全産業よりも低く、採用率も低い。

6――おわりに (私見)

6――おわりに (私見)

今後、増加が見込まれる要介護者に対して、訪問介護・通所介護サービスを拡充することは、欠かせないものと言える。

事業の経済性を確保するためには、両サービスとも、まず、利用頻度(利用回数、利用者数)を高めることが必要と考えられる。その上で、大都市で有利な訪問介護、地方都市で有利な通所介護、というそれぞれのサービスの特性を踏まえて、事業を展開することが重要となる。

その際、鍵となるのは、介護職員である。近年、介護職員の処遇改善の問題が取り沙汰されてきたが、給与面では、介護職員処遇改善加算などの政策効果が徐々に現れてきた。ただし、訪問介護では、職員の大半を占める非常勤・時給の職員の給与の伸びが、常勤・月給の職員の給与の増加割合を下回っており、効果の発現は道半ばと言える。

併せて、介護職員の労働条件や、キャリア形成についても、改善に向けた取り組みが必要と言える。特に、人手が足りないなど、労働環境の厳しさは、徐々に増している。その上、介護業務に対する社会的評価が低いとの不満が年々高まっており、注意を要する。ただし、離職率を見ると、常勤雇用者は高いものの、非常勤雇用者は全産業よりもむしろ低い。職員が介護職に就く際に持っている高い職業意識を、就職後も保持し続けられるよう促すことで、定着率の引き上げは可能と考えられる。そのために、介護職の常勤化や正規雇用化を進めるとともに、賃金や労働条件の一層の改善を図る必要があろう。これにより、介護事業が安定化し、介護サービスの質の向上につながることが期待される。

特に、介護業務に対する社会的評価については、介護業界だけではなく、社会全体で理解を深めていく必要があるものと考えられる。今後も、引き続き、訪問介護・通所介護等の展開に注目していくことが求められよう。
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