【アジア・新興国】韓国における生命保険市場の現状- 2016年のデータを中心に -

2017年05月17日

(金 明中) 社会保障全般・財源

3――収支の概況

2016年第3四半期における生命保険会社の保険料収入総額は27.3兆ウォンで、前年同期の27.2兆ウォンから少し増加した。保険料収入総額で個人保険が占める割合は93.5%で、団体保険の6.5%を大きく上回っていた。但し、団体保険の保険料収入総額は前年同期に比べて11.5%も増加しており、個人保険の前年同期比増減率-0.1%を大きく上回った(図表6)。最近、団体保険の保険料収入が増加している理由としては退職年金の加入増加により保険料収入が継続的に増加していることが挙げられる。
2016年第3四半期における生命保険の商品類型別保険料収入は、生存保険の場合、初回保険料が大きく減少し、継続保険料も2016年第1四半期から減少に転じた結果、前年同期に比べて14.6%も減少した。死亡保険や生死混合保険の場合は、初回保険料が大きく減少したにもかかわらず、継続保険料が増加したことにより前年同期に比べてそれぞれ6.9%、10.5%増加している。そして変額保険の場合は、初回保険料は増加傾向にあるものの、継続保険料が減少した結果減少傾向が続き前年同期に比べて5.4%も減少するという結果となった(図表6)。
 

4――市場シェアの推移

4――市場シェアの推移

保険料収入を基準とした市場シェアは、大手3社(サムソン生命、ハンファ生命8、教保生命)の割合が年々減少傾向にあるのが目立つ。2000年には79.9%であった大手3社の市場シェアは、2016年第3四半期には45.3%まで減少している。一方、中小生命保険会社9や外資系生命保険会社の同期間における市場シェアはそれぞれ14.4%、5.7%から37.0%、17.8%まで増加した(図表7)。
2010年から2014年までには特に中小生命保険会社の市場シェアが大きく増加しているが、その理由としては、銀行が所有している中小生命保険会社がバンカシュアランス販売により自社商品の販売を拡大したこと、2012年3月から農協の農協共済が農協生保と農協損保に分離し市場に参入10したこと、2013年末にING生命が韓国を基盤とするMBKパートナーズ11に売却され、2014年第1四半期から中小型生命保険会社としてカウントされたこと等が挙げられる。一方、ING生命の売却以降、大きく減少した外資系生命保険会社の市場シェアは最近再び増加している傾向である。

大手3社の市場シェアが減り、中小生命保険会社の市場シェアが増えることにより、市場への特定企業の集中度を表すハーフィンダール・ハーシュマン指数12は、2010年2471から2016年第3四半期には1000まで大きく減少した(図表7)。

 
 
8 2010年9月以前には大韓生命。
9 中小生命保険会社は、上位3社と外資系生命保険会社8社を除いた会社である。
10 従来は協会の外枠であった農協共済が農協生保になることにより業界の枠内に入ってきたのが中・小型生命保険会社のシェアを増加させたと言える。
11 MBKパートナーズは、2005年に設立したアジア最大規模の投資ファンド会社である。
12 ハーフィンダール・ハーシュマン指数(Herfindahl-Hirschman Index)とは、ある産業の市場における企業の集中度を表す指標のこと。市場に参入している企業の市場占有率(%)を二乗し、すべての企業における総和を求めたものである。
 

5――資産運用

5――資産運用

2016年第3四半期の韓国の生命保険会社の資産総額は775.5兆ウォン(前年同期の707.1兆ウォンに比べて9.7%増)で、運用資産の利回りは3.61%(対前年同期比0.57%ポイント減)に達している。一般勘定資産の中では有価証券が73.6%で最も高い割合を占めており、次は貸出債権(17.6%)、不動産(2.2%)、現金と預金(1.8%)の順であった(運用資産は一般勘定資産の95.3%、非運用資産4.7%、図表8)。
一般勘定資産の中で不動産が占める割合は年々減少傾向にあるが、その理由としては、生命保険会社の非業務用不動産の所有が原則的に禁止されていることにより、生命保険会社の不動産資産はほぼ変わらないことに比べて、総資産は持続的に増加している点が挙げられる。

生活研究部   上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

金 明中(きむ みょんじゅん)

研究領域:社会保障制度

研究・専門分野
高齢者雇用、不安定労働、働き方改革、貧困・格差、日韓社会政策比較、日韓経済比較、人的資源管理、基礎統計

経歴

プロフィール
【職歴】
独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年9月ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月から現職

・2011年~ 日本女子大学非常勤講師
・2015年~ 日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員
・2021年~ 横浜市立大学非常勤講師
・2021年~ 専修大学非常勤講師
・2021年~ 日本大学非常勤講師
・2022年~ 亜細亜大学都市創造学部特任准教授
・2022年~ 慶應義塾大学非常勤講師
・2024年~ 関東学院大学非常勤講師

・2019年  労働政策研究会議準備委員会準備委員
       東アジア経済経営学会理事
・2021年  第36回韓日経済経営国際学術大会準備委員会準備委員

【加入団体等】
・日本経済学会
・日本労務学会
・社会政策学会
・日本労使関係研究協会
・東アジア経済経営学会
・現代韓国朝鮮学会
・韓国人事管理学会
・博士(慶應義塾大学、商学)

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