貸出・マネタリー統計(17年4月)~マネーの伸びは高水準、投信の減速は止まらず

2017年05月12日

(上野 剛志) 金融市場・外国為替(通貨・相場)

3.マネタリーベース: 増加ペースはやや持ち直したが、一時ほどの勢いはなし

5月2日に発表された4月のマネタリーベースによると、日銀による資金供給量(日銀当座預金+市中に流通するお金)を示すマネタリーベース平均残高は456兆円で、前年比での伸び率は19.8%と、前月(同20.3%)からやや低下した。内訳のうち、日銀当座預金の伸び率が前年比25.4%と前月(26.4%)から低下したことが主因である。また、日銀券発行高の伸びが前年比4.2%と前月(4.5%)から低下したことも影響している(図表7・8)。
マネタリーベースの伸び率は引き続き長期にわたって緩やかに低下している。分母にあたる前年の残高が増加していることの影響もあるが、マネタリーベース自体の増勢が一時よりも鈍ってきていることも影響している。

マネタリーベース(末残)の前年比増加額を見ると、ピークである2015年9月には86兆円に達していたほか、昨年前半までは概ね80兆円で推移してきた(図表9)。ただし、以降は縮小ぎみであり、直近4月も、前月からは持ち直したものの、76兆円に留まっている。昨今、日銀の国債買入れペースが鈍化していることが要因として挙げられる。

4.マネーストック: マネーの伸びは高水準、投資信託の減速は止まらず

5月12日に発表された4月のマネーストック統計によると、市中に供給された通貨量の代表的指標であるM2(現金、国内銀行などの預金)平均残高の伸び率は前年比4.3%(前月改定値は4.2%)、M3(M2にゆうちょ銀など全預金取扱金融機関の預貯金を含む)の伸び率は同3.6%(前月も同じ)となった(図表10)。M3の伸びを小数点第2位までみると、4月は前年比3.63%と3月の3.56%を上回り、現行統計開始(2003年4月)以来の最高を更新した。貸出の増勢が強まっていることなどから、マネー量の拡大ペースも従来に比べて強まっている。
M3の内訳では、普通預金など預金通貨の伸び率が前年比8.8%(前月改定値は9.4%)となり、今年年初をピークに伸びが鈍化してきている。一方、定期預金など準通貨の伸び率が▲1.6%(前月改定値は▲1.8%)とマイナス幅を縮小、CD(譲渡性預金)の伸び率が1.4%(前月改定値は▲5.8%)とプラスに転じている。

昨年続いた定期預金・CDから普通預金へのシフトは、今年に入って以降、勢いが弱まりつつある(図表11)。
M3に投信や外債といったリスク性資産等を含めた広義流動性の伸び率は前年比2.7%(前月改定値は2.5%)と前月から上昇、昨年10月(1.5%)を底として伸びが回復してきている(図表10)。

内訳としては、既述のとおりM3の伸びは前月から若干の上昇に留まったが、金銭の信託(前年比▲0.8%、前月は▲2.0%)、国債(同▲5.5%、前月は▲9.1%)がそれぞれマイナス幅を縮小したことが寄与した。

一方、投資信託(元本ベース)の伸び率は前年比▲0.2%(前月は2.2%)とマイナスに転じた(図表12)。伸びがマイナスとなるのは、2013年2月以来のことである。投資信託は長らく減速が続いてきたが、とりわけ4月は地政学リスクや仏大統領選への警戒が高まったため、家計等においてリスク性資産である投信への投資を見合わせる動きが強まった可能性が高い。

リスクイベントの通過などから5月のマーケットは一転してリスク選好の色彩が強まっており、投資信託にも持ち直しの動きが現れるかが、次回マネーストック統計の注目点になる。
 
 

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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志(うえの つよし)

研究領域:金融・為替

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴

・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
・ 2007年 日本経済研究センター派遣
・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

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