日銀短観3月調査では、注目度の高い大企業製造業の業況判断D.I.が12と前回12月調査比で2ポイント上昇し、2四半期連続で景況感の改善が示された。大企業非製造業の業況判断D.I.も20と前回比2ポイント上昇し、6四半期ぶりに改善した。
前回12月調査では、円安の進行や国際商品市況の持ち直し、生産の回復などから大企業製造業の業況判断D.I.が改善する一方、インバウンド消費鈍化の影響などを受けて非製造業では景況感が伸び悩みとなっていた。
16年10-12月期の実質GDP(国内総生産)成長率は前期比年率で1.2%(2次速報値)となり、日本経済が回復基調を維持していることが示されたが、今年1月以降の経済指標も総じて底堅い状況が続いている。世界経済の持ち直しを受けて、輸出(数量)と生産は2月にかけて増加基調にある。これまで冴えなかった消費にも、雇用所得環境の改善などを受けて持ち直しの兆しがみえる。実質消費水準指数(除く住居等、季調値)は2月にかけて2ヵ月連続で改善しているほか、2月の自動車販売台数も前年比で大きく増加している。また、金融市場では、今年に入って、やや円高方向にシフトしているものの、米大統領選前と比べると依然として大幅な円安水準が維持されている。
今回、大企業製造業では輸出の回復や円安の持続を受けて幅広い業種で景況感が改善した。非製造業も消費の持ち直しのほか、16年度第2次補正予算の執行や大都市圏での再開発を受けた建設需要などが、景況感の改善に繋がった。ただし、円安・資源価格高止まりに伴う仕入コスト上昇などが景況感の抑制に働いたとみられ、マインドの改善は想定していたよりも限定的であった。
中小企業の業況判断D.I.は、製造業が前回比4ポイント上昇の5、非製造業が2ポイント上昇の4となり、大企業同様、製造業・非製造業ともに改善が示された。
一方、先行きの景況感については、企業規模や製造・非製造業を問わず悪化が示された。海外情勢については、トランプ米大統領の政策運営、フランス大統領選や英国のEU離脱等を控えた欧州の政治リスクなど、不透明感が強い。国内では消費の加速が見込みづらいほか、一部業種では人手不足に対する懸念が表面化していることが影響したとみられる。
なお、事前の市場予想との対比では、注目度の高い大企業製造業については、足元(QUICK集計14、当社予想は15)、先行き(QUICK集計13、当社予想は12)ともに市場予想を下回った。大企業非製造業は、足元(QUICK集計19、当社予想は23)は予想を若干上回ったものの、先行き(QUICK集計18、当社予想は21)は予想を下回った。
2016年度の設備投資計画(全規模全産業)は、前年度比0.4%増と前回調査時点の1.8%増から下方修正された。例年、12月調査から3 月調査にかけては、上方修正されやすいクセがあるが、今回は大企業の大幅な下方修正によって、全体でも下方修正となった。事業環境を巡る不透明感がかなり強かったことが、設備投資の抑制に働いたとみられる。
今回から新たに調査・公表された2017年度の設備投資計画(全規模全産業)は、2016年度計画比で▲1.3%となった。例年3月調査の段階では前年割れでスタートする傾向が極めて強いため、マイナス自体にあまり意味はない。近年の3月調査との比較が重要になるが、今回は近年の3月調査での伸び率をかなり上回る計画が示されている。16年度計画が下方修正になっていることから、一部先送りされた分が17年度計画に加算された面もあるとみられるが、それを考慮しても強めであることには変わりない。生産の回復や人手不足等が計画の追い風になっている可能性が高い。
ただし、海外を巡る先行き不透明感はかなり強いことから、海外動向が今後の設備投資の大きなカギになってきそうだ。
今回の短観では、企業景況感の幅広い改善が確認され、日銀の景気回復・物価上昇シナリオをサポートする材料になりそうだ。ただし、先行きの景況感の弱さに慎重さが残る点は懸念材料として残るだろう。
ただし、今回の結果が日銀の金融政策に直接与える影響は限定的になる。もともと残された追加緩和の余地が小さいうえ、米大統領選後の円安進行と底堅い原油価格はともに物価の上昇に作用するため、当面、日銀が追加緩和を迫られる可能性は大きく低下している。一方で目標である物価上昇率2%は依然として遠く、出口戦略を視野に入れる段階にも全くない。従って、日銀は2%達成を目指し、長期にわたって現行金融政策の維持を続けるだろう。従来と比べて、日本の景気や企業の景況感と金融政策の関係性は希薄化している。
2.業況判断D.I.:事業環境の改善を受けて、幅広く改善