2-6.インド
インドはGDP統計によれば7%台の力強い成長が続いているようだが、政府統計に対する疑念はこれまで以上に深まっている。昨年11月には政府が突然、流通する現金の約9割を占める高額紙幣の廃止を実施したことにより、現金不足に陥り、国内が混乱したにもかかわらず、16年10-12月期の実質GDP成長率は前年同期比7.0%増と、前期の同7.4%増から小幅の低下に止まった。特に10-12月期の景気を牽引したとされる民間消費は前年同期比10.1%増と、7-9月期の同5.1%増から急上昇したことは驚くべき結果だ。確かに十分な雨量が得られたカリフ期の収穫の本格化によって農業所得が回復したこと、また7月から支給が始まった第7次公務員昇給(平均+23.55%増)によって家計の実質所得は増加しており、廃貨がなければ民間消費が加速したことに違和感はない。しかし、廃貨によって小売業や消費財関連産業、不動産、二輪車販売など現金取引が主流の産業は打撃を受けたことは確かだ。実際、10-12月期の自動車販売台数(二輪・三輪含む)は前年同期比1.3%増(前期:同14.3%増)と急落したほか、日経PMI指数も11月に大きく低下して楽観・悲観の境目である50を下回っており、GDP統計とは反対の動きを示している。これはGDPが集計する統計データは現金取引の少ない大企業中心であり、廃貨によって現金取引に大きな支障が出た中小零細企業を含まないことが理由と考えられる。
1-3月期は捕捉されなかった廃貨の悪影響が波及して一定程度GDP統計に表れるだろうが、10-12月期同様に景気減速は限定的で成長率は6%台後半を予想する。また新紙幣の供給についても、中央銀行は2月1日にATMの現金引出し上限を撤廃し、3月には平常レベルに回復すると示すなど進展しており、現金不足の混乱は収束しつつある。
17年度は、輸出と投資が持ち直して7%台半ばまで景気が回復すると予想する。消費者物価上昇率は現金不足による価格下落が一巡して足元で上昇しており、今後も資源高や通貨安による輸入インフレを受けて上昇基調が続くと見込まれ、民間消費は伸び悩むだろう。もっとも廃貨によって落ち込んだ消費者心理の改善や雨期の十分な雨量見通し
4を背景に農業の回復傾向が続いて農家の所得増が見込まれること、そして雇用・所得環境の改善が続くことが支えとなり、民間消費の減速は小幅に止まるだろう。
また輸出は緩やかな増加傾向が続くなか、民間投資も徐々に持ち直すと予想する。銀行は不良債権問題の解消に時間を要するものの、高額紙幣廃止に伴う預金額の増加を受けて貸出姿勢を積極化させること、そして来年の物品・サービス税(GST)の導入によって複雑な間接税体系が一本化されてビジネス環境が改善することも民間投資の徐々に追い風となるだろう。
このほか、17年度政府予算案では資本支出を前年度比25%増と大幅に拡充したことから公共投資が景気を牽引役となると見込まれるとともに、廃貨で困窮した中小企業に対する減税が盛り込まれ、農村開発予算も同25.4%増と手厚い配分がなされたことも経済の安定化に寄与するだろう。
金融政策は、17年2月の金融政策会合でも政策金利を据え置き、政策スタンスを中立化させた。足もとは低インフレ環境にあるものの、先行きの物価上昇リスクや国際金融市場の不安定化しやすい状況が続くことから金融政策を据え置くだろう。
実質GDP成長率は、廃貨の影響を受ける16年度が7.0%と、15年度の7.9%から低下するものの、その後は17年度が7.6%、18年度が7.4%と堅調な伸びを続けると予想する(図表10)。
4 気象情報会社スカイメット社