ますます巨大化する米国の大手医療保険会社~国民に医療保障を届ける唯一無二の存在へ-オバマケアの帰趨に左右されない強さ-

2017年01月18日

(松岡 博司)

5|エクスチェンジ事業からの撤退
エクスチェンジ事業で損失が発生し、しかも将来に向けての改善も考えられないという状況に嫌気がさしたいくつかの医療保険会社はエクスチェンジ事業からの撤退を図った。オバマケアでは、医療保険会社はエクスチェンジへの出品を義務づけられていたわけではない。

2016年4月には、最大手ユナイテッドヘルスが他社に先駆けてエクスチェンジ事業からの撤退を表明した。同社は34の州のエクスチェンジで保険を販売していたが、2017年にはほんの一部の州で販売するだけとなった。同社のCEOは「持続可能に見えない市場に資金をつぎ込むわけにはいかない」と述べた。

グラフ6はユナイテッドヘルスの撤退表明時にその影響を確認するために作られたグラフであるが、最大手会社であるために撤退の影響は大きい。他の条件が2016年のままであるとすると、ユナイテッドヘルスの撤退前はエクスチェンジにおいて3社以上の商品から加入商品を選べた郡が全体の64%あったのに対して、同社の撤退が実施された後には、この数値が48%に下がってしまう。代わって、たった1社の商品にしかエクスチェンジで加入することができない郡が7%から24%に増えてしまう。

同じことを利用者数で見てみると、1社の商品にしかエクスチェンジで加入することができない利用者の割合が撤退前の2%から撤退後は11%に急増してしまう。
ユナイテッドヘルスが先陣を切った撤退の動きは他社にも波及した。8月にはエトナも15州のうち11州から撤退すると発表した。エトナは年3億ドルの赤字が発生したと述べた。

表4はそうした撤退の動きをまとめたものである。これによれば、連邦エクスチェンジを使っている州だけの単純合計では、2016年には商品提供社数が累計232社あったものが2017年には累計167社へと68社減少することになっている。2017年に新たに商品を提供し始めた参入社が15社ある一方で、撤退社の累計が83社に及んでいる。撤退社の出現により1社しか商品提供保険会社がなくなってしまう州が出ている。
6|エクスチェンジ事業での保険料の値上げ
エクスチェンジで商品提供を続ける医療保険会社は、エクスチェンジで販売している医療保険商品から多発される保険金支払いを賄うため、2016年と2017年に保険料の大幅引き上げを実施した。最大手ユナイテッドヘルス等のエクスチェンジ事業撤退も保険料引き上げに影響を及ぼした。撤退会社に損失をもたらした契約者が事業継続会社の商品に移動してくることが予想に加えられるからである。

表5は2016年から2017年にかけての値上げの概観である。連邦エクスチェンジを活用している州だけで見れば、2017年の保険料は2016年の保険料に対して、平均で25%、中間値で16%上昇した。
連邦当局は、エクスチェンジを通じて医療保険に加入する多くの消費者は収入の水準やその地域の保険料にリンクした補助金を連邦政府から受けるので、保険会社が提示する保険料の全てを実際に負担するわけではなく、保険料値上げを部外者が想像する程には負担に感じていないと説明している。

表6は「世帯収入2万5,000ドルの27歳の個人」と「世帯収入6万ドルの4人家族」をモデルケースとして、エクスチェンジでシルバーレベルの医療保険に加入した場合の表定保険料、税還付等による補助額、補助受給後の実質負担保険料の例が記載されている。

たしかに実質負担額は保険会社が提示する表定保険料の半額以下に下がるので消費者の加入意欲に水を差す程度は少なくなるかも知れない。しかし負担増であることは間違いなく、エクスチェンジを通じた医療保険加入者に保険料値上げがどのような影響を与えたか、検証が必要になるだろう。
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