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高度部材産業とは
「高度部材」について、決まった定義があるわけではない。そこで先行研究を調べたところ、少し古い資料ではあるが、九州経済産業局が2005年度に行った調査によれば、高度部材とは「原材料の純度、組織構造などの高度な制御を行い、または、高度な成形加工技術によって生まれた性能・機能性に優れた材料、部材及び一部の部品」
1を指す。なお、同調査では「部品については、部材との区分が明確でないものもあるため、部品も含めた定義とした。しかし、部品には多くの部材によって組み立てられた機器に近いものもあるため、一部の部品に限定するのが適切であると考えられる」
2と指摘されている。本稿では、この定義を基本的に踏襲しつつ、部品については、受動部品、接続部品、変換部品など、いわゆる「電子部品」は高度部材に含めないこととする。
高度部材産業は、(1)化学合成、製膜、精密成形、光学、バイオ、MEMS(微小電気機械システム)などの高度な「科学技術」を持つ比較的事業規模が大きい企業群が主として担う「機能性部材産業」と、(2)鋳鍛造、プレス加工、めっき、切削加工、熱処理、金型設計、表面処理などの高度な「ものづくり基盤技術」を持つ匠の中小企業群、いわゆる「サポーティングインダストリー」の2つに大別できると考えられる。
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開発過程と企業規模に関わる特徴
「機能性部材産業」では、企業の研究開発部門の研究者・エンジニアによって社内業務や社外での共同研究・学会活動を通じて社内に蓄積される「科学的知見」、「サポーティングインダストリー」では、熟練工によってものづくりの現場で長年にわたって培われる「匠の技能・ノウハウ」が、各々競争力の源泉となる。
機能性部材産業は、科学的知見を基に進められる研究開発のリードタイムが相対的に長く、また研究開発投資や設備投資の必要規模が比較的大きいなど高い不確実性を伴うため、中小企業が関わるにはリスクが高いとみられ、企業体力が相対的に強い大企業・中堅企業が担うケースが圧倒的に多いとみられる。一方、サポーティングインダストリーは、開発過程の予測可能性が比較的高く、また職人的・現場的知見が活かしやすいため、中小企業が関わりやすい面が強いと思われる。
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多様で広範な産業分野に及ぶ具体事例
機能性部材産業の代表例としては、主として大手化学メーカーが手掛ける電子材料が挙げられ、日本企業は同分野でこれまで高シェアを確保し高い国際競争力を誇ってきた。また、医薬品や農薬の原料(中間体・原薬)、機能性食品素材なども機能性部材のカテゴリーに含まれ、多様で広範な産業分野に及んでいる。
サポーティングインダストリーも、技術分野ごとに様々な事例が存在するが、例えば自動車部品用プレス金型、素材にない機能・性質(電気的特性、磁性、光反射・吸収等)をめっきによって付加する「機能めっき」、半導体・光学部材などの先端分野で必要となるセラミックスやシリコンなどの硬脆性素材の微細加工、半導体製造装置の中枢部品の一部として用いられる高精度の特殊ネジなどが挙げられる。
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高度部材産業と川下産業の擦り合わせが我が国製造業の強みの源泉
我が国には、世界的にも稀有な高度部材産業集積が形成されていると言われる。高度部材産業を形成する企業群と、自動車、電機・電子、産業用機械・製造装置、ロボット、医療・福祉機器、医薬品、農薬、食品などの最終製品を提供する企業群(川下メーカー)との開発や生産の現場での極めて濃密かつ迅速な連携、いわゆる「擦り合わせ」が、我が国製造業の強みの源泉となってきた。
また、擦り合わせ段階での試行錯誤は、更なる技術の進化・蓄積=イノベーションの源になると考えられる。
1 九州経済産業局「九州地域における高度部材産業の産学官連携に関する調査研究報告書」(2006年3月、委託先:日本アプライドリサーチ研究所)より引用。全国の地方公共団体の中でいち早く高度部材産業に着目し、その振興に注力してきた三重県も、同県「みえ産業振興戦略」(2012年7月)の中で九州経済産業局による定義とほぼ同様のものを用いている(弊社は調査研究の受託(筆者がプロジェクトマネージャーを担当)により、同戦略の策定に関わった)。
2 引用元は脚注1と同様。例えば、半導体および液晶パネルは、スマートフォン、タブレット、薄型テレビなどの最終製品のキーデバイス(基幹部品)となるが、高度部材産業の考察では「部材」ではなく「(中間)製品」として扱い、半導体・液晶パネルの製造プロセスで使用される多くの電子材料を「部材」として扱うことが通例である。
3――高度部材産業において高い競争力を誇ってきた日本企業