3|動的ボラティリティ調整(Dynamic Volatility Adjustment)
(1)概要
「動的ボラティリティ調整」とは、ストレス条件下で、スプレッド水準の変動等に対応して、ラティリティ調整の水準を変動させることをモデル化して適用する、ことをいう。動的ボラティリティ調整の使用により、保険会社は必要資本を減らすことができる。
SCRの算出に標準式を使用する会社は、動的ボラティリティ調整の恩恵を受けることはできないが、EU指令は内部モデルでの使用に関して何も述べていないため、各国監督当局の裁量が発揮された形になっている。
(2)各国の監督当局の方針
そのため、動的ボラティリティ調整の使用に関して、各国の監督当局間で異なる方針が採用されている。各国の監督当局の考え方は、概ね以下の通りと言われている。
オランダの監督当局であるDNB(De Nederlandsche Bank:オランダ国立銀行)は、一定の条件を満たせば動的ボラティリティ調整を適用してもよい、としており、内部モデルにおいて、動的ボラティリティ調整を使用するために、どのような点を考慮すべきかを公表している。
一方で、英国のPRAは、動的ボラティリティ調整の使用により、要求資本の軽減を図ることは、ボラティリティ調整の「会社の貸借対照表のカウンターシクリカル軽減」という目的を傷つけるものだとして、動的ボラティリティ調整を認めない旨のガイダンスを2015年6月に発行している
4。
ドイツの監督当局であるBaFin(Bundesanstalt fur Finanzdienstleistungsaufsicht:連邦金融監督庁)は、負債評価とリスク・モデリングの整合性が図られることから、動的ボラティリティ調整を支援している。
フランスの監督当局であるACPR(Autorité de contrôle prudentiel et de résolution:健全性規制・破綻処理庁)は、ボラティリティ調整が変化しなければ、時間不整合を引き起こし、意味のある使用に適したアウトプットを得るという目的を危険に晒すことになるとして、むしろ市場リスクをモデル化する際に動的ボラティリティ調整は使用が奨励されるものだとしている。
(3)課題と今後の動向
動的ボラティリティ調整を使用するためには、参考資産ポートフォリオの構成、大量解約リスクとの相互作用や契約者行動との相互作用を含む多くの複雑な要素の変化を考慮しなければならない。これらを信頼が置ける形でモデリングすることが必要になってくるが、これは容易なことではない。
EIOPAは、保険会社がどのような状況や条件下で、動的ボラティリティ調整を使用しているのかについて、監視し、情報を収集している。EIOPAは、ボラティリティ調整に関するモデリングに関して、グッド・プラクティスとなる基準を設定し、監督上の意見を作成することを目指しており、今後の動向が注目される。
(参考) ボラティリティ調整への各国監督当局への対応の差異
そもそも、ボラティリティ調整については、オムニバスII指令では、その使用に関して、監督当局による事前承認はオプションであるとしており、監督当局は「例外的な状況」において、ボラティリティ調整の使用を停止することができる、と規定されている。
これを受けて、各国の監督当局の対応は異なっており、例えば、フランスやスウェーデンは事前承認を必要としていないが、ドイツは事前承認を必要としている。
さらに、具体的な適用要件に関しても、「EUの規制やEIOPAのガイドラインが既に十分な詳細を提供しているため、これ以上のガイダンスは必要ない。」「ボラティリティ調整は、会社固有のものではなく、通貨又は国別のものであるため、追加の要件を課すことなく、適用されるべきだ。」との意見がある。
ただし、事前承認を必要としない場合でも、ボラティリティ調整を適用する保険会社は、監督当局に通知することに加えて、精査を受けることになり、必要に応じて、ボラティリティ調整の使用に関連するリスクを補うために自己資本増強を求められることにもなる。
なお、ボラティリティ調整を使用する場合には、調整が適用されるポートフォリオの入出金キャッシュフローを予測する流動性計画をまとめなければならず、さらに、自己資本における資産の強制売却の可能性と、ボラティリティ調整がゼロに引き下がる場合の影響を定期的に評価し、財務報告書において調整に伴うベネフィットを開示する必要がある。
4 Solvency ii: supervisory approval for the volatility adjustment – SS23/15 01 June 2015
Page Content
4―ソルベンシーIIの今後の検討課題-リスク評価に関する項目-