鉱工業生産16年10月~持ち直しが続く生産、在庫調整の進展が好材料

2016年11月30日

(斎藤 太郎) 日本経済

1.在庫指数が大幅に低下

経済産業省が11月30日に公表した鉱工業指数によると、16年10月の鉱工業生産指数は前月比0.1%(9月:同0.6%)と3ヵ月連続の上昇となり、事前の市場予想(QUICK集計:前月比0.1%、当社予想は同▲0.2%)通りの結果となった。出荷指数が前月比2.2%と生産を大きく上回る高い伸びとなったため、在庫指数は前月比▲2.1%の大幅低下となった。
10月の生産を業種別に見ると、新型スマートフォン関連需要で好調が続く電子部品・デバイスが前月比4.6%の高い伸びとなり、輸送機械も同0.6%と堅調を維持したが、はん用・生産用・業務用機械(前月比▲1.6%)、電気機械(同▲2.9%)などの落ち込みがそれを打ち消す形となった。速報段階で公表される15業種中6業種が前月比で上昇、9業種が低下した。
財別の出荷動向を見ると、設備投資のうち機械投資の一致指標である資本財出荷指数(除く輸送機械)は16年7-9月期の前期比1.0%の後、10月は前月比2.2%となった。また、建設投資の一致指標である建設財出荷指数は16年7-9月期の前期比▲1.6%の後、10月は前月比3.3%となった。16年7-9月期のGDP統計の設備投資は前期比0.0%の横ばいにとどまったが、円高を主因として急速に落ち込んだ企業収益はすでに最悪期を過ぎている可能性が高い。設備投資は今後徐々に持ち直しに向かうことが予想される。
消費財出荷指数は16年7-9月期の前期比0.9%の後、10月は前月比4.1%の高い伸びとなった。耐久消費財が前月比6.7%(7-9月期:同4.0%)、非耐久消費財が前月比0.5%(7-9月期:▲1.3%)であった。

鉱工業指数には輸出向けの出荷が含まれていることには注意が必要だが、昨日までに公表された10月の消費関連指標と合わせて考えると、個人消費は持ち直しつつあると判断される。

2.3四半期連続の増産へ

製造工業生産予測指数は、16年11月が前月比4.5%、12月が同▲0.6%となった。生産計画の修正状況を示す実現率(10月)、予測修正率(11月)はそれぞれ▲2.4%、▲0.1%であった。

予測指数を業種別にみると、11月ははん用・生産用・業務用機械(前月比12.2%)、電気機械(同9.5%)、情報通信機械(同9.3%)が非常に高い伸びとなっているが、これらの業種はこのところ実現率が大幅なマイナス(10月はそれぞれ▲5.8%、▲4.9%、▲10.2%)となっており、実際の生産は計画を大きく下回る可能性が高い。

一方、輸送機械は11月が前月比1.3%、12月が同2.2%と着実な増産計画となっている。輸送機械は計画と実績の乖離が比較的小さい業種であることに加え、在庫水準が消費税率引き上げ前の水準にまで大きく低下しているため、増産が実現する可能性が高い。他産業への波及効果が大きい輸送機械の計画が強めとなっていることは明るい材料と考えられる。
16年10月の生産指数を11、12月の予測指数で先延ばしすると、16年10-12月期は前期比3.7%の高い伸びとなる。生産計画が下方修正される傾向が続いているが、11、12月の生産の伸びが予測指数から▲2.5%ずつ下振れても10-12月期は前期比1.2%の伸びとなる(7-9月期は同1.3%)。

現時点では、夏場の生産を大きく押し上げた新型スマートフォン関連需要の剥落などから10-12月期の伸びは7-9月期を下回ると予想しているが、3四半期連続の増産は確保できそうだ。鉱工業生産は消費税率引き上げ後、2年連続の減産(14年度:前年比▲0.5%、15年度:同▲1.0%)となるなど低迷が続いてきたが、ここにきてようやく持ち直しの動きが明確となってきた。

経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎(さいとう たろう)

研究領域:経済

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴

・ 1992年:日本生命保険相互会社
・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
・ 2019年8月より現職

・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
・ 2018年~ 統計委員会専門委員

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