それが、自動車の交通量の増加に伴い、第2次世界大戦後の昭和24年に、占領軍GHQの指導で、当時の道路交通取締法の改正が行われ、対面交通の考え方に基づいて、「歩行者は右側通行」に変更された。
当時から既に、米国は「自動車は右側通行」、「歩行者は左側通行」の国であったので、GHQは「自動車を右側通行」に変更するように要求したが、日本が「道路上の施設の変更や車両(バス等)の乗降口の変更等に天文学的な財政支出を必要とし、また長期の期間を有する」との理由で反対したため、結局は、安全上の観点を考慮して、「対面交通」の考え方の導入を優先するために、「歩行者を右側通行」に変更することで了解した、とのことのようである
2。
これだけ、米国との関係が深い日本において、なぜ「自動車の通行ル-ル」が異なっているのか、不思議に思われていた方も多いと思うが、これで一定納得できたと思われる。なお、何故、米国で「自動車が右側通行」なのかについては、次回の「研究員の眼」で説明することにする。
(参考1)鉄道駅構内では、「人は左側通行」が原則
さて、「歩行者は右側通行」がル-ルとなったと述べたが、実は、鉄道駅構内では、「歩行者は左側通行」が原則となっている
3。これは、GHQの指導が、車道だけに限られていたため、車の走らない駅構内には指導が徹底せず、「歩行者は左側通行」の例外が認められた、と言われている。
実際に、現在の駅構内の階段等に「左側通行」の指示板を見ることができる。
(参考2)エスカレーターの立ち位置は、自動車の通行ルールに準拠が原則
現在の「エスカレーターの乗り方」における基本的なルールは「エスカレーターでは歩かない」ということであり、歩行禁止が呼びかけられている。ただし、実際は多くの人が歩いている。
このエスカレーターの乗り方の慣例が、東京と大阪で異なっているというのは有名な話である。東京では「左立ちで、右側を通行のために空ける」のに対して、大阪では「右立ちで、左側を通行のために空ける」ということになっている。
エスカレーターの立ち位置については、世界的にみて、一般的には自動車の通行ルールに準拠している。即ち、右側通行の国は右立ちで左側が通行(追い越し)用に空けられ、左側通行の国は左立ちで右側が通行(追い越し)用に空けられる。こうした観点からは、「自動車は左側通行」の日本では、大阪のルールが原則を外れた(?)ものということになる。
大阪で東京とは異なるルールが定着した理由について、一般的には、以下のように説明されている。
1967年に阪急梅田駅でエスカレーターが設置されたとき、(右利きのため)右手で手すりを持つ人が多かったため、混乱を避けるために右側に立つというルールをアナウンスした結果、それが定着した。その後、1970年に開催された「大阪万博」を機に、多くの外国人が大阪に訪れるのに備えて、「国際標準の右立ち」
4を徹底したと言われている。ただし、右立ちのルールは、大阪以外では、兵庫や京都の一部に限定されているようだ。
2 道路交通問題研究会「道路交通政策史概観」
3 歩行者や自動車の通行ルールとは異なり、全てが統一されているわけではないので、右側通行となっているケースもある。
4 米国や英国、ドイツ、フランス等の欧米主要国が右立ち、オーストラリア、ニュージーランドが左立ちとなっている。