オフィス賃料は反発も、インバウンド需要のピークアウトが商業施設、ホテルに影響~不動産クォータリー・レビュー2016年第3四半期~

2016年11月08日

(増宮 守)

(3) 商業施設・ホテル・物流施設
商業施設、ホテル市場では、インバウンド需要のピークアウトの影響が表れてきている。ただし、訪日客の人数自体は、依然として前年同月比2割増しのペースで増加している(図表-18)。9月には前年同月比+19.0%の192万人となり、訪日外客数の年初累計は1,798万人に達した。

9月には韓国からの訪日客の増加が前年同月比+42.8%と目立ち、航空路線の新規就航などが大きく寄与したとみられる。その他、アセアン各国からの訪日客数の伸びも引き続き堅調で、9月にはインドネシアが前年同月比+38.5%、フィリピンが+31.3%、タイが+30.0%のように大幅に増加した。また、アジア以外でも米国、カナダからの訪日客数の伸びもそれぞれ前年同月比+26.9%、24.8%と加速しており、訪日旅行プロモーションの効果が表れた。

一方、台風によるクルーズ船のキャンセルが増加するなど、絶対数の最も多い中国からの訪日客数の伸びは9月に前年同月比+6.3%と著しく減速した。ただし、年初来では+30.5%の高い伸びを維持しており、既に9月時点で2016年の中国からの訪日客数は500万人を突破した。
訪日外客数の増加の一方、訪日客の日本国内での1人当たり消費額は、2016年7-9月期に前年同期比-17.1%と大きく落ち込んだ(図表-19)。ちなみに、政府主導で贅沢品の消費を抑えている中国人の消費額は-18.9%と大幅に縮小したが、中国に止まらず、フランス-30.6%、マレーシア-30.1%、ベトナム-28.7%、タイ-25.1%など、幅広く訪日客の消費額が縮小している。
インバウンド消費需要の減退が国内全体の消費市場に与える影響は無視できず、商業動態統計による9月の小売業販売額(税込み)は、季節調整済み指数で前年同月比-1.9%となった。既存店ベースの9月の売上高は、百貨店が前年同月比-5.0%と7ヶ月連続のマイナスとなり、スーパーマーケットとコンビニエンスストアも軒並み-2.3%、-0.01%のマイナスとなった(図表-20)。

百貨店では、特に外国人向けの免税品売上が低迷しており、日本百貨店協会によると、9月の訪日購買客の人数は前年同月比+15.9%と増加したものの、売上高は前年同月比-10.1%と6ヶ月連続のマイナスとなった。

ちなみに、店舗売上の頭打ちを受け、高級品店の多い銀座を筆頭に、商業施設賃料もピークアウトの傾向となっている(図表-21)。
また、稼働率の上昇が続いてきたホテル市場もピークアウトしつつある。訪日外客数が伸びているにもかかわらず、国内宿泊施設の延べ宿泊者数をみると、8月には外国人分も前年同月比マイナスに落ち込んだ(図表-22)。民泊の普及やクルーズ船の増加など、様々な理由が考えられるが、総じて、訪日客の宿泊需要拡大がホテル市場を牽引する状況は収束しつつある。

実際、高水準だった前年同月と比べ、ホテル稼働率が低下する月が増えてきている(図表-23)。また、STRグローバルによる8月の全国のホテルのRevPAR3は、前年同月比-1.7%の14,223.98円となり、必ずしも客室単価の引き上げも進んでいない。高級、上位クラスホテルでのRevPARの低下が顕著となっており、宿泊特化型などは前年比プラスを維持しているものの、高級、上位クラスホテルのマイナスを補完できていない。
 
3 Revenue Per Available Room、1日あたり販売可能客室数当たり宿泊部門売上。
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