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潜在GDPの推計方法
潜在GDPの推計方法には(1)生産関数を用いる方法、(2)HPフィルターによるトレンドを用いる方法、(3)NAIRU
2アプローチによる方法、等がある。
日本銀行、内閣府、ニッセイ基礎研究所はいずれも生産関数アプローチを採用している。以下では、生産関数アプローチによる潜在GDPの推計方法の概要を示す。
まず、以下のコブ・ダグラス型の生産関数を仮定する。
ln(
Y)=(1-α) ln(
K)+α ln(
L)+ln(
TFP)・・・(1)
Y:実質GDP、
K:資本投入量、
L:労働投入量、
TFP:全要素生産性、α:労働分配率
TFP(全要素生産性)は(1)式に現実のGDP、現実の資本・労働投入量を代入することによって残差として求められる。ただし、このようにして求めたTFPはGDPなどの毎期の振れを含んでいるため、HPフィルターによって平滑化したものを全要素生産性とする。
(1)式に潜在資本投入量、潜在労働投入量、全要素生産性を代入することにより、潜在GDPが求められる。
ln(Y
※)=(1-α)ln(K
※)+αln(L
※)+ln(
TFP)
Y
※:潜在GDP、K
※:潜在資本投入量、
L※:潜在労働入量
日本銀行、内閣府、ニッセイ基礎研究所の潜在GDPの推計方法は、大枠では同じだが、推計に用いるデータ、推計方法の細かい部分は異なっている。
たとえば、労働投入量=15歳以上人口×労働力率×(1-失業率)×一人当たり総労働時間
で計算される。潜在労働投入量はこの式の労働力率、一人当たり総労働時間にトレンド、失業率にUV分析を用いた構造失業率を代入することによって求めるところは共通だが、内閣府、ニッセイ基礎研究所が全体の労働力率、総労働時間にHPフィルターを使ってトレンドを計算しているのに対し、日本銀行は労働力率に関しては年齢階層別、男女別にHPフィルターでトレンドを抽出、労働時間に関しては一般労働者分、パート労働者分の潜在労働時間を別々に推計するという方法をとっている。
資本投入については、基本的な推計方法はほぼ同じだが、推計に用いる資本ストックのデータが異なっている。具体的には、日本銀行はJIPデータベースの資本ストック、内閣府は「固定資産残高に係る参考試算値(内閣府)」の実質固定資産残高
3、ニッセイ基礎研究所は「民間企業資本ストック(内閣府)」を用いている。「民間企業資本ストック」は過去からの投資額の累積から廃棄された設備(除却額)を控除することによって推計されているが、既存設備の陳腐化、磨耗などによる経済的な価値の低下が反映されていないという問題点が従来から指摘されている。これに対し、JIPデータベースの資本ストック、内閣府の実質固定資産残高は設備の減耗分が毎期控除されているため、経済的な価値により近いものになっていると考えられる。ただし、JIPデータベース、内閣府の実質固定資産残高は四半期データが存在しない(年データのみ)、公表が遅い
4といったデメリットもある。日本銀行、内閣府は公表データが存在しない期間について、延長推計、四半期化を行っている。
2 Non-Accelerating Inflation Rate of Unemployment(インフレ率を加速させない失業率)
3 2015年2月までは「民間企業資本ストック(内閣府)」を用いていた。
4 現時点で、JIPデータベースの最新値は2012年、実質固定資産残高の最新値は2014年である。