低金利や相続税対策などによる活況の一方、不動産賃貸市場の一部に頭打ち感~不動産クォータリー・レビュー2016年第2四半期~

2016年08月02日

(竹内 一雅)

5.不動産サブセクターの動向

(1)オフィス

2016年前半に東京都心部では、JR新宿ミライナタワー、住友不動産新宿ガーデンタワー、大手町フィナンシャルシティグランキューブ、東京ガーデンテラスなどの新規供給があった。新築大規模ビルへの需要の強さから内定が進み、これらのビルではすでに8割以上の稼動となった。

三幸エステートによると、2016年第2四半期の東京都心Aクラスビル6 の空室率は2.6%、Bクラスビルは2.5%と、ほぼ空室がない状況にある(図表-16)。空室率の低下が続く一方、成約賃料(オフィスレント・インデックス)は、Aクラスビルで前期比▲6.9%、Bクラスビルでは同▲3.1%と上昇が頭打ちとなっている。今回の賃料下落は、第2四半期における円高や株安、消費の停滞、熊本地震の発生、企業収益の悪化に加え、前期に大規模ビルの新規供給があった反動などから成約件数が比較的少なかったことも影響したようだ。

空室率については、東京都心部の全規模で低下が見られ、特に最近では中型ビルの低下が顕著に進んでいる(図表-17)。大規模の空室率がかなり低下し、渋谷区などではこれ以上の低下が難しくなっていることから、中小型ビルへの需要の波及はさらに進む可能性もある(図表-18)。
三鬼商事によると、2014年10月から2016年2月まで続いた都心部でのオフィス賃貸面積(需要面積)の増加ペースが低迷した時期が終了し、2016年3月から5月にかけて需要は久しぶりに大きく増加した(図表-19)。ただし、新規の大規模供給がなかった6月には需要は再度減少した。これには、築浅で手ごろな賃料の大規模ビルの入居余地が少ないことも影響していると思われる。

森ビルによると、2017年の都区部での大規模ビルの供給量は最近では2013年に次ぐ低い水準である(図表-20)。このため、需要がプラスで推移する限り、オフィス空室率の低下傾向は、2018年以降の大量供給が市場に現れるまで、当面継続すると考えられる。とはいえ、都心部の新築大規模ビルへの移転では、一人当たり面積を縮小させる動きが一般化しており、高額な家賃負担力を持つ企業の移転が一巡傾向にあることなどからも、今後の市況の改善動向には注意が必要だろう。

全国的にもオフィス空室率の低下は続いている(図表-21)。2016年は主要都市における大規模ビルの供給が少なく、供給圧力の少なさも市況改善に大きく貢献している(図表-22)。
 
6 Aクラスビルは、エリア(都心5区等)、延床面積(1万坪以上)、基準階面積(300坪以上)、築年数(15年以内)などを条件とするガイドラインから、三幸エステートが個別ビル単位で選定している。Bクラスビルはエリア(都心5区等)内に立地し、基準階面積200坪以上でAクラスビルに該当しないビル。
(2)賃貸マンション

主要都市の賃貸マンションの賃料は概ね上昇基調にある(図表-23)。ただし、前述(脚注3)したように、相続税対策による貸家着工の増加から、首都圏ではアパート(木造、軽量鉄骨造)の空室率(TVI)が急上昇し30%を上回ったという。 高級賃貸マンションの空室率は低下傾向が続き、ファンドバブル期とほぼ同程度の水準にまで低下した。賃料も新規の供給がみられる中で、底値から+15%程度上昇するなど堅調に推移している。
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