15年6月27日、ユーログループは、支援機関側が提示した「改革プログラム」の最終案の賛否を問う国民投票を7月5日に実施する方針を表明したギリシャ政府からの支援期限の延長要請を退けた。ギリシャの銀行からは預金流出が加速しているが、ECBはギリシャ中央銀行へのELAの上限引き上げを見送り、ギリシャは29日から資本規制導入に追い込まれた。
6月末に現在の支援プログラムは失効、IMFへの延滞も避けられなくなったが、ただちにギリシャのユーロ離脱に発展する訳ではない。ギリシャ政府の要請で、ユーログループと支援協議を再開することは可能であり、現時点では、無秩序なデフォルトからユーロ離脱に発展することは避けられると見ている。
リスクシナリオは、国民投票の結果、「NO」が多数を占めた場合であり、ユーロ離脱が現実味を帯びる。しかし、その可能性は高くはなく、ギリシャが直面する問題の解決策にもならない。
( ユーログループは国民投票を決めたギリシャへの支援延長を拒否-先週末からの流れ )
ギリシャ支援協議が週末に急展開し、6月末を期限とする国際通貨基金(IMF)の15.4億ユーロの延滞が不可避となった。
22日には、ギリシャ政府が超えてはならない「レッドライン」としてきた年金改革も含む「改革プログラム」を提案したことで合意への期待が広がったが、裏切られてしまった。24日に
プログラムを精査した支援機関側が「改革プログラム」の修正案を提示、受け入れを迫ったことで流れが変わった。
26日、
ギリシャ政府は、支援機関側の最終案への賛否を問う国民投票を7月5日に実施する方針を表明、これに伴う支援期限の延長を支援機関側に要請した。しかし、27日、
ユーログループは、ギリシャ政府からの支援期限の延長要請を退けた。これにより凍結されてきた72億ユーロの支援金とともに、欧州中央銀行(ECB)が国債買い入れプログラム(SMP)、ユーロ参加国の中央銀行が国家金融勘定(ANFA)を通じてギリシャ国債の償還で得た収益の受け取る権利も失効する。
28日には国民投票に関する法案がギリシャ議会を通過、ECBは、電話による緊急会合を開催し、ギリシャ中央銀行に認めている緊急流動性支援(ELA)の上限を26日の水準(約890億ユーロ)に据え置くことを決めた。
チプラス首相は、テレビ演説で、支援機関側に、国民投票実施のための支援期限の数日間の延長を引き続き求めていることを明らかにすると同時に、
29日からの銀行営業の停止と資本規制の実施を発表した。
( なぜ協議は決裂したのか )
筆者は、支援協議の決裂は、ギリシャ政府にとっても、ユーロ圏にとっても政治的な失敗となるため、土壇場で合意が実現すると期待していた
1。
しかしながらギリシャが、
一時的にせよ、支援プログラムから外れる方向に事態が展開した原因は、チプラス政権が、実現不可能な公約を掲げて発足したことにあると考えている。
チプラス政権は、「財政緊縮緩和」、「債務負担の軽減」、そして「ユーロ残留」という道筋を探ろうとしてきた。だが、ユーロ圏から見れば、ギリシャに他のユーロ参加国とのバランスを著しく欠いた譲歩はできなかった。EUの基本条約が救済を禁じているために債務再編にも限界があった。
最終的に支援機関側は、支援プログラムを5カ月延長する提案とともに、ギリシャ政府が22日に提示した「改革プログラム」を、成長と両立し得る内容に改めるよう求めた。法人税収の増収への依存度を引き下げ、負担を公平化、年金制度は簡素化と早期退職を促す制度の見直しを前倒しするというのが大枠だ。例えば、年金分野では、(1)開始時期をギリシャ案の15年10月末から同年7月1日に前倒し、(2)年金受給開始年齢の67歳への段階的引き上げの最終期限をギリシャ案の2025年に対して2022年に前倒し、(3)低所得年金受給者向け手当て(EKAS)についてはギリシャ案の「段階的に代替する枠組みに切り替える」案に対して、支援機関案は19年までに段階的に廃止するなどを求めた。税制に関しては、(1)法人税率の引き上げ幅は、ギリシャ案の26%→29%を26%→28%に下方修正、(2)ギリシャ案の50万ユーロ以上の利益がある企業に15年度1回限りの12%の特別法人税を却下、(3)離島に永住する低所得者への特別税額控除の提案を却下、(4)付加価値税についてはギリシャ案の軽減税率対象品目の削減でGDP比0.74%の増収に対して、支援機関は同1%の増収を求めた。
チプラス政権は、「改革プログラム」を提案した段階では、年金改革に踏み込んでも、政権の支持基盤と思われる低所得者や弱者に配慮し、企業に負担を求めるという構図を維持することで、支持者に説明する方針だったと思われる。しかし、こうした政権としての配慮が刈り込まれた最終案を受け入れれば、政権の維持は困難だった。支援を受けながら政権を維持するための苦肉の策であった可能性がある。
しかし、支援機関から見れば、
支援機関の提案の否決を呼びかけて実施される国民投票のために、チプラス政権に猶予を与えることは難しかった。
国民投票の決定を受けたユーログループの支援延長拒否、ECBのELAの上限引き上げ見送りによって、銀行の営業停止、資本規制の導入に追い込まれたギリシャ経済の混乱は避けられないだろう。
( これからどうなるのか? ギリシャのユーロ離脱には直結せず、支援協議の再開も可能 )
国民投票を実施するチプラス政権の延長要請を拒否したことで、現在の支援プログラムは6月末に失効する見通しとなった。IMFへの延滞も避けられないが、ただちにユーロ離脱に発展することはない。
ギリシャ政府の要請によってユーログループと支援協議を再開することは可能である。今後、無秩序なデフォルトの末、ユーロを離脱する事態に発展することは回避できるのではないか。
ユーロ圏としてもギリシャが、そうした状況に陥ることは好ましくない。12年までと違い、
金融のネットワークを通じた危機拡大のリスクは低下しているし、財政危機の飛び火も起きにくくなっている。それでも、ユ
ーロ離脱の意志はなく、その準備もしていないギリシャ政府を切り捨てることは、地政学的なリスクの観点、何よりもEUの連帯を大きく傷つけるからだ。
7月5日に実施される国民投票で「YES」が圧倒的多数を占めた場合、支援協議は再開しやすくなる。しかし、支援機関のチプラス政権への不信感は根強い。解散・総選挙を経て、新政権が協議にあたることが必要になるかもしれない。