貿易統計16年5月~円高の影響で輸出が弱い動き

2016年06月20日

(斎藤 太郎) 日本経済

1.原数値の貿易収支は4ヵ月ぶりの赤字

財務省が6月20日に公表した貿易統計によると、16年5月の貿易収支は▲407億円と4ヵ月ぶりの赤字となり、事前の市場予想(QUICK集計:265億円、当社予想も265億円)を下回った。輸出入ともに前年比で二桁の減少となったが、輸出の減少幅が前月から若干拡大(4月:前年比▲10.1%→5月:同▲11.3%)する一方、輸入の減少幅が前月から大きく縮小(4月:前年比▲23.3%→5月:同▲13.8%)したため、貿易収支は前年に比べ1,746億円の改善となったが、改善幅は前月から大きく縮小した。

輸出の内訳を数量、価格に分けてみると、輸出数量が前年比▲2.4%(4月:同▲4.6%)、輸出価格が前年比▲9.1%(4月:同▲5.7%)、輸入の内訳は、輸入数量が前年比3.6%(4月:同▲7.5%)、輸入価格が前年比▲16.8%(4月:同▲17.1%)であった。
季節調整済の貿易収支は2,698億円の黒字となり、4月の3,970億円から黒字幅が縮小した。輸出が前月比▲1.3%と4ヵ月連続で減少する一方、輸入が前月比1.0%と11ヵ月ぶりに増加した。原数値の貿易収支は4ヵ月ぶりの赤字となったが、5月はGWに伴う生産停止の影響でもともと輸出量が少なく赤字になりやすい月であり、貿易収支の実勢を判断するためには季節調整値を用いることが適切である。5月の貿易収支(季節調整値)は前月から悪化したものの、15年11月に東日本大震災以降初の黒字となった後、黒字基調は維持されている。

2.主要3地域向けの輸出が減少

5月の輸出数量指数を地域別に見ると、米国向けが前年比▲6.3%(4月:同▲11.3%)、EU向けが前年比▲1.4%(4月:同9.1%)、アジア向けが前年比▲2.1%(4月:同▲1.1%)となった。

季節調整値(当研究所による試算値)では、米国向けが前月比▲4.1%(4月:同▲2.9%)、EU向けが前月比▲9.4%(4月:同▲5.6%)、アジア向けが前月比▲2.3%(4月:同▲1.9%)、全体では前月比2.1%(4月:同▲2.4%)となった。

中東、中南米、ロシアなど主要3地域向け以外の輸出が持ち直したため、5月の輸出数量全体は前月比でプラスとなったが、4、5月の輸出数量指数(季節調整値)の平均は1-3月期よりも▲1.4%低い。海外経済の減速に加え、年明け以降の円高の影響が顕在化し始めたことから、輸出は全体として弱めの動きとなっている。

3.夏場以降、貿易収支(季節調整値)は赤字へ

5月の通関(入着)ベースの原油価格は1バレル=40.6ドル(当研究所による試算値)となり、4月の37.0ドルから上昇した。ドバイ原油は1月中旬の20ドル台半ばから足もとでは40ドル台半ばまで上昇しており、通関ベースの原油価格も6月には40ドル台半ばまで上昇することが見込まれる。

原油価格の持ち直しに伴い輸入価格の上昇が見込まれる中、円高の進展、海外経済の減速などから輸出は当面弱い動きが続くことが予想される。夏場以降、季節調整値の貿易収支は赤字に転落する可能性が高いだろう。

経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎(さいとう たろう)

研究領域:経済

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴

・ 1992年:日本生命保険相互会社
・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
・ 2019年8月より現職

・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
・ 2018年~ 統計委員会専門委員

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