2|離脱支持多数の場合-離脱の意思を告知、協定の締結作業に着手
離脱支持多数の場合も、現状が直ちに変わる訳ではない。英国政府がまとめた離脱手続きに関する文書によれば
1、結果判明後、速やかにEU首脳会議に離脱の意思を告知、EU離脱に関わるEU基本条約第50条の手続きが始まる。
離脱の意思告知を受けて「離脱協定」の締結作業に入っても、実際にBREXITが実現するのは、離脱協定の発効時か、離脱の意思を告知して2年後であり、その間、英国はEU加盟国であり続ける。離脱協定の発効には、EU首脳会議によるガイドラインの合意、欧州議会の過半数による賛成、EU閣僚理事会の特定多数決(英国以外の27カ国のうち20カ国でその人口が65%を超える)の賛成が必要になる。
英国が、離脱後にEUの単一市場への特権的なアクセスを望むのであれば、EUとの間で新たな協定(以下、新協定)が必要になる。新協定について、EU基本条約第50条には明確な規定はないが、離脱と同時に発効することが望ましく、並行して作業が進められると見られる。
英国と27のEU加盟国による協定の締結作業は難航が予想される。新協定の立法プロセスは離脱協定とほぼ同じだが、踏み込んだ内容であればEU閣僚理事会での決議には全会一致が必要になり、各加盟国の権限が関わる「混合協定」となる場合には、各加盟国での批准手続きも必要になる。
離脱協定と新協定の発効にEU条約が規定する2年間で漕ぎ着けるのは容易ではない。期限内に作業が終わらない場合の選択肢は2つある。1つは期限の延長である。期限の延長には英国以外の27カ国の全会一致が必要となる。もう1つは、離脱前の新協定の締結を断念することだ。その場合、世界貿易機関(WTO)協定の最恵国待遇原則(MFN 原則)の例外規定から外れるため、英国のEUへの関税は、現在のゼロからMFN関税率まで引き上げられる。英国はすべてのWTO加盟国を平等に扱う義務も負う。
EU域外との貿易も離脱の影響を受ける。英国はEU加盟国としてEU未加盟の欧州諸国や地中海諸国、中南米諸国などと関税同盟、欧州共同市場(EEA)、自由貿易協定(FTA)や経済連携協定(EPA)などを通じた特恵的なアクセスを得ている。EU加盟国として締結した60カ国との協定は離脱後に再締結する必要がある。米国との包括的貿易投資協定(TTIP)、日本とのEPAなど67カ国と進めている交渉からも外れることになる
2。これらの交渉は基本的にEUとの新協定が大筋でまとまった後にスタートすることになると思われる。
1 HM Government(2016a)
2 FTA等の締結国、交渉国の数についてはIMF(2016)を参考にした。