待機児童の解消に向けて、政府の取り組みは当初の計画以上に進んでいる。また、政府は保育園の用地不足や保育士不足等の把握できている課題については着実に対処している印象も受ける。しかし、待機児童の状況は依然として都市部を中心に厳しい状況が続いている。
この大きな要因として、需要と供給の量・スピードが合致していないことがあげられる。
需要については、「潜在待機児童」の存在を考慮し、その量に見合う政策を実施する必要がある。国全体として女性の労働力に期待をかける中では、少なくとも「すぐに働きたい意志はあるのに、認可保育園の選考にもれて育児休業を延長した」「保育園に入れないために求職活動を休止している」といった「保育園に空きがないから働けない」という状態は待機児童に含めるべきだ。
また、待機児童問題の原因として、育児休暇を取りにくい非正規雇用者が増えたことで低年齢児からの利用意向が高まったことがあり、非正規雇用者も含めた育児休業の徹底が必要との指摘もある
10。需要側である子育て世代の雇用環境の改善も検討すべきだ。
供給については、「潜在待機児童」を把握した上で、保育園用地の確保に向けた更なる施策や保育士の処遇改善を早急に実施すべきだ。用地確保については国家戦略特区など地域の特徴が利用された施策もあるが、保育士確保に向けても地域差等の特徴を考慮した対応も検討する必要がある。
政府は、保育士の給与を1.2万円引き上げる方針を固めたが、待機児童の状況は地域により大きく異なる。また、1.2万円引き上げても全産業平均との年収差は埋まりにくい。限りある財源を効果的に投下するには、保育士の給与を一律に上げるのではなく、人手不足が深刻な地域や一般的に厳しい雇用環境にある民間企業の保育士、特に非正規職員として働く保育士の処遇から手厚く改善していくという考え方もある。政府が女性の活躍促進を打ち出す中、保育需要は全国的に高まっていくとすると、地域によらず保育士の平均給与が全産業と比べて低水準であることは課題であり、最終的には保育士の給与が底上げされることが理想的かもしれない。しかし、深刻な保育士不足を早期に解決していくには、地域差や雇用形態を考慮することが効果的だろう。また、待機児童マップで見た通り、待機児童のいない県と待機児童の多い県が近接しているところもある。都市部では保育士の定着を目的に住宅補助や育児休暇中の補助金を支給する自治体もあり、給与だけでなく福利厚生面の充実を図ることで、保育士の人手に余裕のある近接県から保育士を呼び込める可能性もある。
さらに供給については、今、目の前で困っている家庭の救済措置も必要だ。現在、認可保育園の選考にもれて待機児童となってしまった場合、成すすべはない。東京都の多くの自治体では、認可保育園に入れずに東京都認証保育所
11を利用する場合、認可保育園との差額を給付している。例えば、この給付の仕組みを拡大し、認証保育所以外の認可外保育施設等や自宅内でのベビーシッターによる保育にも適用できれば、少しでも救済につながるのではないだろうか。
以上のように、待機児童の解消に向けては、需要側と供給側の課題を着実に、かつ極め細やかに解決していく必要がある。
10 前田正子「待機児童問題の視点(上)需要側からも解決策探れ、1~2歳児保育、優先」日本経済新聞経済教室(2016/4/14)
11 認可保育所の設置基準を東京の現状に合うように変えた独自制度。施設面積の緩和、0歳児保育の実施、駅前の施設設置等がなされている。