2007年の公的医療保険競争強化法に基づく改革においては、民間医療保険に対して、以下に述べるような改革が行われた。これらは、民間医療保険に公的医療保険の代替機能を持たせるためには、保険会社に対しても一定の制約や規制が必要になる、との考え方に立っている。
1|基本タリフの導入
2009年1月から、(代替医療保険を提供する)民間医療保険会社は、公的医療保険の給付サービスに相当する「
基本タリフ(Basistarif)」
10を提供しなければならなくなった。基本タリフは、加入時の年齢別に保険料が決定されるが、健康状態は加味されない。保険料水準は公的医療保険の平均最高保険料(2016年1月現在、月額665.29ユーロ)を上回ってはならない
11。これは、民間医療保険に加入していたが、保険料の未納等を理由に無保険者となってしまった人たちを、民間医療保険に再加入させることを意図している。
基本タリフでは、原則、公的医療保険に加入義務のない人を対象として、公的医療保険の種類・範囲・水準と同等以上の(公的医療保険に準ずる)給付を行うことを義務付けられている。
基本タリフは、民間医療保険連盟が保険監督法に基づいて設計している業界共通の統一料率商品である。基本タリフに基づく商品については、危険選択の禁止等に伴う保険リスクの均等化を図るために、保険監督法第154条の規定に基づいて、公的医療保険と同様に、保険会社間でリスク構造調整が行われる。
(参考)危険選択の禁止
基本タリフにおいては、民間医療保険会社は、加入申込者の既契約が詐欺や故意の告知義務違反等で有効ではなくなっている場合以外は、加入申込みを却下できない。被保険者の健康状態を反映した割増保険料の徴収や既往症の免責(不担保)も禁止されている。基本タリフにおいても、保険会社は健康状態に関する質問を行うことはできるが、そのデータは、保険監督法に基づくリスク構造調整もしくは契約変更・移管等のためにのみ使用が許される。
なお、基本タリフの契約者は、付加医療保険(例えば、入院時の1人・2人部屋の選択可能、医長による診察等)の契約を締結することができるが、その付加医療保険については、健康状態に応じて、謝絶、割増保険料の徴収や既往症の免責(不担保)等を行うことはできる。
2|老齢化積立金のポータビリティの実現
民間医療保険会社は、高齢期の支払い増に備えて老齢化積立金を積み立てているが、これについては、加入者個々には管理されていないとの理由から、加入者が保険会社を変更する際等に、払戻を行っていなかった。このため、加入者にとって、保険会社を変更することは事実上困難な状況にあった。
しかし、2009年1月1日より、老齢化積立金を他の民間医療保険会社に移管できるようになり、加入者による保険会社間の移動が事実上可能となった。
なお、移管額は、基本タリフを基準として算出される老齢化積立金を上限とし、公平になるように、新契約費の調整が行われる。また、移管額を超える既存の老齢化積立金がある場合には、それをもって付加医療保険契約を締結することもできる。
3|基本タリフの導入及び老齢化積立金のポータビリティに対する民間医療保険会社の憲法異議申し立てとその結果
公的医療保険競争強化法によるこれらの改正に対して、民間医療保険会社等が、「基本タリフの提供義務は、基本権、特に職業選択の自由及び結社の自由を侵害しており、これを規定している公的医療保険競争強化法と保険契約法は憲法に違反している」等として、連邦憲法裁判所に憲法異議を申し立てた。しかし、連邦憲法裁判所は、2009年6月に、以下の趣旨の判決を行い、この憲法異議を棄却した。