進化を続けるリバースモーゲージ~(その1)米国:ライフサイクルを通じた持家政策の実現へ~

2016年03月31日

(篠原 二三夫) 不動産市場・不動産市況

【変動金利(ARM)による融資種類】
金利のタイプには変動と固定条件がある。変動金利による融資には、給付条件によって次の種類がある。
  • 終身月払(Tenure):借り手が亡くなるまで一定額を月払いする。1~2%程度の利用者構成率。
  • 定期月払(Term):一定期間内で一定額を月払いする。2~3%程度の利用者構成率。
  • 融資極度額設定(Line of credit: LOC):融資期間中に極度額の範囲で自由に引き出すことができる。81~92%の利用者構成率で主流を占めている(表3)。
  • これらの各組合せ(Tenure + LOC, Term + LOC):5%から14%の利用者構成率である。
ただし、2014年10月からは、MMI基金のリスク管理のために、契約後最初の12ヶ月に借り手が引き出せる融資金は、元本限度額(PLF)の60%もしくは既存債務の返済など必要とされる金額に元本限度額の10%を加えた金額のどちらか高い方までに規制されている。
 
【固定金利(FRM)による融資種類】
従来はローン契約後に借り換えなどのために一括借入を行うHECMには変動金利と固定金利の双方が利用できたが、金融危機後の金利低下時に、米国ではポピュラーで融資限度額を予定しやすい固定金利を利用し、最大限に住宅の資産価値を流動化しようとした借り手が、引き出し額が十分ではないと気がついた際には財産税(固定資産税)や住宅保険費用の支払いも出来ずに破綻する事例が急増したため、2013年1月のルール改定により同年4月以降は固定金利が利用できなくなった。
例外は、住宅購入型(HECM for Purchase)及び融資限度額が低く抑えられたHECM for Saver(後述)だけとなったが、後者は2013年9月29日までの特例制度であったため、現在では住宅購入型だけが固定金利で利用できる制度として存続している。
以上を背景に、図7のように、サブプライム問題が顕在化するまでは変動金利がほとんどであったが、金融危機後に利子率が低下すると、2010年~2013年は借換え目的を含めた固定金利利用が60~70%弱を占め、破綻リスクが高まった。2013年4月からのルール変更によって、固定金利の構成率は2014年18.7%、2015年15.8%と急速に減少している。
(5)HECM融資契約手数料
HECM融資のための契約手数料は、借り手の予算制約から現金等で直接支払えない場合、元本融資限度を削る形で融資対象にできる。すべての手数料や費用は、通常の住宅融資と同様に、2011年7月に導入された不動産契約手続法(Real Estate Settlement Procedures Act)に基づき、明細を示す必要がある。これには不動産鑑定費用や住宅検査など第三者が行う費用も明示する義務がある。
HECM融資契約手数料は、次の通り、最低と最高限度の条件が定められている。
(a) 最低融資契約手数料は2,500ドルとする。
(b) 20万ドルまでの融資限度(MCA)には最高2%まで、20万ドルを超えた部分については1%までの手数料とするが、合計で6,000ドルを超えないこと。
 
(6)実際の融資プラン
以上のようなHECM内容によって、実際にどのような融資が得られるのか見てみよう。
表4は、実際に現時点でHECMの住宅融資担当者が試算し、顧客に示している様式に基づいて作成した融資プランである(参考として掲載)。
借り手は74歳で住宅評価額は625,500ドルとFHAのMCAの限度相当額である。諸条件から、元本限度計数(0.606)を乗じた結果、元本限度額は379,053ドルとなった。住宅価格の上昇率は年率4%で計算されることになっているが、これは融資プランを組み立てる上で、現時点で認められている上昇率である。
初期及び将来の利子率は3.382%と5.010%で計算されている(利子の他に、1.25%の住宅融資保険料も負担する)。
初年度の融資保険料等の支払いのために18,000ドル及び融資契約のための手続き費用1,095.20ドルの合計19,095.20ドルを融資してもらうのと同時に、毎月2,000ドルの融資(年間24,000ドル)を亡くなるまで継続してもらい、年金を補填する計画である。スケジュールでは99歳まで表示されているが、実際には亡くなるか、自ら退去するまで毎月2,000ドルの融資は続くこととなる。
その他に、極度額50,582.18ドルのLOCが設定されている。
このように、米国の現行のHECM制度下では、住宅の価値が60万ドル程度あれば、現時点では毎年2万ドルを超える融資金を亡くなるまで得ることができる。利子率はわが国よりも高めであるが、FHA融資保険制度の存在とともに、住宅価格が長期にわたり4%で上昇することが、過去の経験からも適正とされる市場・経済環境が整っていることが大きなポイントとなっている。このため、融資残高の上昇に対応するように物件価値は十分に成長し、住宅の残存資産価値が長期にわたり元利総額を上回る状況が続いている。
 

社会研究部   土地・住宅政策室長

篠原 二三夫(しのはら ふみお)

研究領域:不動産

研究・専門分野
土地・住宅政策、都市・地域計画、不動産市場

経歴

【職歴】
 1975年 丸紅(株)入社
 1990年 (株)ニッセイ基礎研究所入社 都市開発部(99年より社会研究部門)
 2001年より現職

【加入団体等】
 ・日本都市計画学会(1991年‐)           ・武蔵野NPOネットワーク役員
 ・日本不動産学会(1996年‐)            ・首都圏定期借地借家件推進機構会員
 ・日本テレワーク学会 顧問(2001年‐)
 ・市民まちづくり会議・むさしの 理事長(2005年4月‐)
 ・日米Urban Land Institute 国際会員(1999年‐)
 ・米国American Real Estate Finance and Economics Association国際会員(2000年‐)
 ・米国National Association of Real Estate Investment Trust国際会員(1999年‐)
 ・英国Association of Mortgage Intermediaries準国際会員待遇(2004年‐)
 ・米国American Planning Association国際会員(2004年‐)
 ・米国Pension Real Estate Association正会員(2005年‐)

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