投資運用対象としての米国不動産-投資対象都市の検討

2016年02月29日

(加藤 えり子)

3――各都市間のオフィス・リターンの相関

各都市間で四半期毎のオフィス・リターンの相関係数を計算してみると、全般に中程度の相関がある(図表5)。相関係数は、アトランタ-サンフランシスコ間が0.34と最小値となったが、それ以外は0.52~0.87のレンジで、投資収益率の観点からはオフィス物件のみでの地域分散をしても効果は限定的であることが分かる。ただし、レンジ内でも相関が高め、低めの都市の組合わせはあり、都市ごとに経済状況、回復のタイミング、オフィス需給などに差もあることが表れている。
 

4――オフィス以外の用途のリターン

4――オフィス以外の用途のリターン

各用途別に98年12月を始点とした累積リターンを米国全体で見ると、商業施設、住宅、物流、オフィスの順に高い(図表6)。オフィスの累積リターンが伸びなかった要因は、リーマンショック後のキャピタル・リターンの下落幅が大きかったことに加え、2001年から2002年の低迷期にもキャピタル・リターンの下落期間が長かったことがある。一方、商業施設については、2002年の低迷後の回復が早く、キャピタル・リターンがプラスで推移した期間が長かったために、リターンの累積が大きい(図表7)。
 
用途別の累積リターンをさらに都市レベルで見ると(図表8-10)、各用途で好調な都市がそれぞれ異なるものの、同じ経済圏にあることで異なる用途でも近いトレンドが見られる都市もある。なお、図表8-10の累積リターンの期間については、都市や用途によって算出開始時点が異なるため、用途ごとに全ての都市のデータがそろう時点を始点としたグラフ(右)と、各都市の算出開始時点をそれぞれ始点としたグラフ(左)を掲載した。
商業施設では、マイアミが他都市に比べ回復が顕著で、ダラス、アトランタはやや回復ペースが緩やかなものとなっているが、全般に大きな差になっていない。全ての都市で下落幅が他の用途に比べると小さいことがわかる。その要因としては、評価額や賃料の変動の少ない郊外型商業を多く含むことが考えられる。
住宅では、金融危機前の上昇期にもサンフランシスコは累積リターンが最も高位で推移したが、金融危機後はさらにそれを大幅に上回るものになっている。ワシントンDCも2010年まではサンフランシスコに追随していたが、その後は回復が緩慢なものになっている。
物流では、金融危機前は、マイアミの累積が最も大きく、次いでロサンゼルス、サンフランシスコであった。金融危機後の回復を経て2014年からはサンフランシスコが急上昇している。ヒューストンは、オフィス同様に金融危機後の下落幅が小さいが、直近の15年末までの数値は上昇が続いており、オフィスに見られた原油価格下落による景気低迷を要因としたピークアウトは物流のリターン数値にはまだ見られない。
 
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