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平成28年度予算案における介護ロボット関係の施策の背景と概要
厚生労働省の平成28年度予算案を見ると、介護ロボット等の開発・普及促進のための事業
3が複数組み込まれている。背景には、少子高齢化が進行する中、介護サービス事業の人手不足と今後さらに介護サービスへのニーズが拡大するという課題認識があり、その対応策の主要事項の一つとして「介護サービスの生産性の向上」が掲げられている。この主要事項における具体的な取組には、「介護分野の効率化・ICT化等による生産性の向上」(新規1.3億円)と「介護ロボット開発等加速化事業」(新規3億円)の2つがあり、主に介護ロボット等の開発・普及についての取組は、後者に3つの事業が組み込まれている。この3事業の一つが、1~2章に述べた2015(平成27)年度の「福祉用具・介護ロボット等実用化支援事業」
4の継続事業である。2016年度のこの事業内容には大きな変更はないと推察され、以下の第2節では新たな2事業による取組について簡略に考察する。
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介護ロボット等の開発支援に向けた新たな取組
まず、「加速化事業」に新たに組み込まれたのは「ニーズ・シーズ連携協調のための協議会の設置」と「介護ロボットを活用した介護技術開発支援モデル事業」である。
介護ロボットの開発には、開発企業と介護施設・介護関係者との協働と共創が必須であることを筆者は過去のレポートで複数回述べている。その理由は、介護ロボットの開発には両者の緊密な協働による、開発企業の技術的シーズと介護関係者のニーズの高度の融合がなければ、使える新たな介護ロボットの開発は容易ではないと考えているからである。この課題解決の一つの方策が一つ目の「ニーズ・シーズ連携協調のための協議会の設置」であると筆者は考えている。この取組では介護現場と開発企業の協議によって、ユーザーである介護現場のニーズに対応した有益な「開発提案」が取りまとめられることになっており、今後、公表される「開発提案」の内容を注視したい。
次に、二つ目の「介護ロボットを活用した介護技術開発支援モデル事業」についてである。現在、本格的な開発が開始され、登場しつつある介護ロボットは、あくまでも介護職等にとって心身への負担の重い単一の介護(介助)業務を支援するための機器や、被介護者の自立促進が可能な機器である。このため介護ロボットの導入に際しては、ロボットを活用する介助業務ごとに新たな介護技術や効果的かつ効率的な運用手法の開発が必須である。この開発を進めるための新たな事業が「介護ロボットを活用した介護技術開発支援のモデル事業」であると考えられる。
この「新たな介護」の開発の必要性については、過去のレポートでも述べてきているが、今後さらに開発や改良が進み進化する介護ロボットを上手に活用して、様々な介護現場の課題を少しずつでも改善していくためには、「モニター調査」等における機器開発に必須の検証や実証試験の実施と共に、介護現場においても「新たな介護の開発」に着手すべき時代が到来していると考える。この二つ目の事業の取組では、介護技術開発を支援するモデル事業を実施することになっており、今後の動向をしっかりと見守りたい。
「加速化事業」の他にも「介護分野の効率化・ICT化等による生産性の向上」や「介護ロボットやICTの効果的な活用方法の検討等(平成27年度補正予算)」などの事業が加えられている。ICTの効果的活用も介護事業の効率化に必須であり、さらに介護の質を高める効果にも期待したい。
繰り返しとなるが、使える介護ロボットの開発・普及のためには、開発企業と介護現場との協働と共創が必要不可欠である。継続される「福祉用具・介護ロボット実用化支援事業」を加えた「加速化事業」の3つの取組が、使える介護ロボットの開発等を大幅に加速化することを大いに期待するとともに、今後の予算成立後における各施策の実行に向けた取組を注視していくこととしたい。
3 この介護ロボット等の開発に関する事業以外にも、普及に関する事業では、2015年度から始まった「地域医療介護総合確保基金(介護分)」を活用した「介護ロボット等導入支援事業」や、平成27年度補正予算による「介護ロボット等導入支援特別事業(52億円)」による普及への取組がある。
4 平成27年度予算の介護ロボット等の開発への取組は「福祉用具・介護ロボット実用化支援事業」のみで、この当初予算は82百万円となっている。