病院の待ち時間の状況-紹介状の義務化は、大病院の待ち時間を短縮できるか?

2015年11月24日

(篠原 拓也) 保険計理

1――はじめに

日本では、患者がどの病院でも自由に診療を受けることができる。これは、フリーアクセスと言われ、日本の医療システムの大きな特徴となっている。近年、高齢化が進むに連れて、患者の数が増え、大病院を中心に医療インフラが逼迫している。これに伴い、医療施設の機能分化が必要となっている。即ち、大病院は、急性期医療として、資源を集中的に投下し専門分化を図ることが求められる。一方、一般診療所1等は、地域包括ケアシステムの枠組みの中で長期療養として、総合的に地域医療を支える役割が期待されている。

医療施設の機能分化が進めば、アクセスの制限が必要となる。原則として、患者は、まずかかりつけ医の診療を受け、病状が重篤な場合等には、かかりつけ医の判断によって大病院等で受療することとなる。その際、かかりつけ医から紹介状が手交される。これまでも医療システムに紹介状の仕組みが取り入れられているが、アクセスの制限にはあまり機能してこなかった。その結果、実態として、大病院では外来の患者の長い待ち時間が常態化しており、問題視されている。本稿では、外来患者の現状を概観し、それを踏まえた上で、アクセスの制限のあり方について検討することとしたい2
 
 
1 一般診療所の他に、診療所としては歯科診療所もある。
2 本稿は、「日本の医療-制度と政策」島崎謙治(東京大学出版会, 2011年)を参考にしている。

2――外来患者の現状

まず、政府の統計をもとに、外来患者の現状を見ることとしたい。

1外来患者数は、一般診療所で横這い、病院で減少

日本では、2011年に、1日あたり、590万人の患者が医療施設を訪れている3。このうち、一般診療所(病床数20床未満)では、患者数はほぼ横這いで推移している。一方、病院では、病床数100床以上500床未満の中病院において、減少が大きい。20床以上100床未満の小病院や、500床以上の大病院では、小幅の減少となっている。


21施設あたりの外来患者数は、病院で減少

1施設あたりの外来患者数を見ると、一般診療所のみ、ほぼ横這いで推移している。中病院は、徐々に減少している。小病院、大病院も、中病院に比べると小さいが、やはり減少している。


3外来患者の初診割合は2割程度

外来患者に占める初診患者の割合を見ると、一般診療所では21%、病院では14%程度となっている。徐々に初診割合が増しているとは言え、外来患者の大多数は再来患者が占める状況が続いている。
 
 
3 厳密には、医療施設の開業日1日あたりの患者数。

3――外来患者の待ち時間の実態

次に、外来患者の待ち時間の実態と、それに対する患者の満足度を見ることとしたい。

1外来患者の待ち時間は、改善していない

2000年代以降、待ち時間の改善はほとんど見られていない。2014年には、1時間以上の待ち時間の患者の割合は、病院規模を問わず、約3割となっている。近年、長い待ち時間は、常態化している。
 

2規模の大きい病院を中心に、外来患者は、待ち時間について不満をもっている

外来患者が受療した病院に抱く印象を見てみよう。全体的な印象としては、満足とする患者が圧倒的に多い。しかし、診察までの待ち時間に関しては、満足と不満が拮抗する。特に、特定機能病院4や大病院といった規模の大きい病院では、不満が満足を上回っている。
 


 
 
4 高度の医療を提供する能力を有するなど、医療法で定める要件を満たす医療施設が厚生労働大臣の承認の上で、特定機能病院と称することができる。2015年6月現在で、大学病院など84の医療施設が該当している。
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