(2)予算決議:6年ぶりに成立も大統領案と考え方に開き
予算編成プロセスでは、上記の歳出上限を意識しつつ、今後10年間の大枠を決める予算決議が議会で決定される。大統領は予算決議に先立ち、予算教書(大統領予算)を議会に提出することで、議会への要望を示すことが出来るが、予算決議は必ずしもこれに縛られない。このため、議会で野党が多数党である場合には、大統領予算と予算決議の内容が乖離することが多い。
予算決議は5月に議会で可決された。予算決議の可決は6年ぶりである。予算決議の決定プロセスでは、上下院別々に予算決議案を決定した後、両院で内容の摺り合わせる必要がある。昨年までは、上下両院で多数政党の異なるねじれ議会であったため、両院の意見集約ができず、予算決議が決定されないことが多かった。
一方、今回決定された予算決議(議会案)と大統領予算の中身を比較すると、財政赤字削減の方向性については一致しているものの、財政赤字削減のスピードや削減手段については考え方に大きな開きがある(図表3)。
また、現行法に基く予算見通し(ベースライン)と比較すると、議会案は歳出を大幅に削減することで10年以内に財政赤字の解消を目指す(「小さな政府」)一方、大統領案は歳入を増加させることで歳出上限を超える歳出拡大を目指している(「大きな政府」)。
さらに、毎年歳出額を決める必要がある裁量的経費について国防と非国防に分けて、歳出見通しを比較すると、大統領案では国防、非国防ともに歳出上限を上回る歳出を目指しているのに対して、
議会案は国防、非国防ともに歳出上限を守った上で、非国防の歳出削減を大きくしていることが分かる(図表4)。
もっとも、議会案は、表面的には歳出上限を守っているようにみえるものの、歳出上限が適用されれないOCOを大統領案より多額に計上することで、OCOを合わせた国防関連支出額では大統領案をも上回る金額を要求しており、実態的には守られていない。
(3)歳出法案審議:暫定予算が期限切れ寸前に成立、政府閉鎖は回避
5月の予算決議を受けて、議会は各省庁に裁量的経費の配分額を決めるための歳出法案の策定を進めた。歳出法案は複数の省庁分がまとめられて合計12本策定される。
予算編成のルール上は歳出法案を6月末までに成立させることになっているが、期限を過ぎることに対する罰則規定はないため、実質的な期限は9月末となっている。さらに、07年度以降は歳出法が9月末時点でも成立しておらず、新年度開始時には前年度予算を踏襲した暫定予算で凌ぐことが常態化している。暫定予算が期限までに成立しない場合には政府機関の閉鎖が発生する。実際、95年のクリントン政権や13年のオバマ政権で政府機関閉鎖が発生した。
16年度の歳出法案審議では、裁量的経費に対する与野党の考えた方が大きく異なっていたため、夏休みが終わり議会が再開された9月上旬時点でも歳出法案が1本も成立していなかった。このため、政府閉鎖を回避するために暫定予算が検討されていたが、「全米家族計画連盟」(Planned Parenthood 、以下PP)に対する補助金の扱いを巡って与野党の対立が先鋭化し、暫定予算の期限内の成立が危ぶまれる状況となっていた。
PPは主に低所得の女性に対して医療サービスを提供する非営利団体であり、全米700の医療機関を展開している。PPでは、妊娠中絶(医療サービス全体の3%)も行っているが、中絶した胎児の臓器を売買して利益を得ているとの疑惑が浮上したため、共和党保守派を中心に暫定予算を成立させる条件として、PPへの補助金削減を求めていた。これに対し民主党は疑惑には根拠がなく、低所得者の医療サービスへの影響が大きいとの判断から補助金削減に強硬に反対した。オバマ大統領も補助金削減を含む暫定予算案には拒否権の発動を明確にしていたことから、9月末に向けて13年以来となる政府閉鎖の可能性が高まっていた。
このような状況に対して、9月25日に下院のベイナー議長が10月末で議長を辞任し、議員も引退することを突然発表した。同議長は、政府閉鎖を政争の具にしている共和党保守派を痛烈に批判し、自身の進退と引き換えに、補助金削減を含まない形で期限切れ直前の9月30日に、12月11日までの暫定予算を成立させた。